雨の中、スプレンディドは三つの緑を見つけた。
 一つは冷たい地面に倒れていて、一つはそれにすがっていた。最後の一つはそれらをぼんやりと見つめていた。
「フリッピー君? それとも、軍人君かな?」
 声をかけると、一つの緑が気だるげに視線を上げた。
「……オレだ」
「ああ、軍人君か」
 日常的な笑みを浮かべる。
 この笑みは相手が軍人でも、フリッピーでも変わらなかっただろう。
「でさぁ……。それはなに?」
 地面に倒れている緑を指差す。
「うん。壊れた」
「そっか」
 笑みは崩さないまま、膝を地面につけてすがりついている緑の顔を見る。
「何かしたんだろ?」
「あ……ああ、シフティ……」
 赤い液体を垂れ流している緑に、すがりつく姿は醜い。
 二つの緑はとてもよく似ている。いつも死ぬときも一緒で、片方だけが赤を流すことはまずない。珍しく助かったのだから、その生を謳歌すればいいのにと思う。
 どうせ、明日になればすべて元通りなのだから。
「ねえ、何をしたの?」
 外の世界ではどうか知らないが、この町での緑は小悪党にすぎない。小さな悪事をしている途中で、フリッピーのトラウマを刺激するようなことをしてしまったのだろう。
「まったく……しょーもない人生だよね」
 薄ら笑いを浮かべながらすがる緑の頭を撫でる。緑はそれに反応を示すことなく、ただただ醜い水を流す。
「スプレンディドさん。帰りましょうよ」
「おや。フリッピー君じゃないか」
 すっと立ち上がり、フリッピーの横に立つ。
「ボク……また、また……やってしまったんです。
 もう、見たくない。見たくない……」
 震えるフリッピーの体を優しく抱きしめて歩き出す。
 その歩みを止めるものがあった。
「何かな?」
「あ……こ……して……」
 震える手で、スプレンディドの足にしがみついている。
「聞こえないよ」
 激しい雨の音が緑の声を消し去っていく。
「オレを、殺して」
 その言葉を聞いたスプレンディドは、ヒーローらしい爽やかな笑みを浮かべ、足を上げた。
「いいよ」
 上げた足によって振り落とされた緑は、凶器じみた力をもった足に踏みつけられた。
「――――っがぁ」
 骨が折れ、肉が潰れる音がする。
 その間、フリッピーは耳を塞ぎ、目を閉じ、世界から自分を隔離していた。
「ねぇ、ボクに教えてくれない?
 君はなんで死にたいの? 今回は珍しく生きていられるちゃんすだったのに。
 ねぇ、ねぇ。早く教えてよ。君が肉隗になってしまう前に」
 何度も足で踏みつける。すると緑から赤い液体が流れる。
「――って、こ……せか、いで……り、む……り」
 潰れた機関を必死に動かし、質問に答える。
「は? 何? 聞こえないんだけど」
 絞り出すような声はスプレンディドには届かない。
「い……行く……」
 最後に踏みつけられる前、緑は幸せそうに笑って口を動かした。
「ばいばい」
 後に残ったのは、赤になった緑と、赤を流す緑だけ。
「っさ、行こうか」
「……ああ。そうだな」
 赤く染まった足でフリッピーに近づくと、彼はいつの間にか軍人と入れ替わっていた。
「おや。軍人君になってしまったのかい?」
「あんだけグロテスクなことを横でされりゃあな」
 呆れたように言い、赤を見つめる。
「どうかした?」
「いや、あいつも面白い奴だと思ってな」
 赤と緑を見比べて笑う。
「あいつら、お互いに依存してやがる」
 楽しそうにナイフを握り、緑へ近づく。
「依存?」
「そう」
 緑へとナイフを振り降ろす。何度も、何度も振り降ろす。緑が赤へと変わっていく。
「ちょっとくらいなら、読唇術ってのが使えるんだ」
 軍人は得意に言いながらも、ナイフを振り降ろす手を止めない。
「『だって、こんな世界で一人で生きるのは無理だ』」
 感情も何もこもっていない声で言う。
「彼らはね、一人で生きられないんだよ」
 赤に変わった緑を両手でかき集め、もう一つの赤と混ぜる。どちらも同じ色。
「これでよし」
 満足気に言い、スプレンディドの手を取る。赤い液体が手に付着した。
「さぁ、帰ろう」
 彼らは一つになった。
 緑が赤になり、赤は一つになった。
「そうだね」
 雨が降る。赤を流していく。


END