オレには双子の兄がいる。
頭はいいけど、体力はない。オレとは正反対だ。顔は鏡みたいにそっくりだけどな。
生まれてからこのかた、ずっと一緒だったし、これからも一緒のつもりだ。考えてることだって、大抵はわかるつもりだ。でも、アレだけはわからない。
「スプレンディド」
嬉しそうに笑う理由がわからねぇ。そんな風に笑うお前は知らねぇ。
「どうしたんだい?」
「今日もあの軍人のとこに行くのか?」
「ああ、そうだよ」
ほら、見てみろよ。そいつはあの軍人が好きなんだ。大人しい方か、凶暴な方かまでは知らねぇけどさ。
「そっか」
悲しげに瞳が揺れた。
そんな顔するなよ。オレならそんな顔させないのに。
「シフティ!」
思わず声を上げる。
「……お、何だよ?」
オレがいたことに気づいていなかったらしい。シフティは驚いている。
なあ、これってどんな笑い話なんだ? オレはシフティがいたらすぐに気づく。だけど、相手はオレのことなんで眼中にないんだ。これは喜劇だろ? 喜劇でなかったらなんて面白おかしい悲劇なんだ!
「今日はどこに行く?」
「おい……」
わざと耳もとで言う。
あの英雄気取りの男の耳ならば聞こえただろう。
「また、悪事を働くのかい?」
おー怖い。
スプレンディドの睨みはそのままビームにでもなって、オレ達を射抜きそうな勢いだ。
「さぁてね」
挑発してやる。横でシフティが怒っているけど、気にしない。
お前が悪いんだ。全部。
「なら、悪の芽を早いうちに摘んでおこうか」
「ヒーローが殺しなんてやっていいのかよ。
オレらだって、殺しなんてしねぇのに!」
ほらほら。怒ってる。オレが嫌われる。その双子の兄のシフティも嫌われる。
「リフティ、やめろ」
知らないね。
「大丈夫、一瞬だよ」
あいつの手がゆっくりと伸びてくる。
別に怖くはない。死ぬことは割りと頻繁にあるし。
「何もしねぇよ! リフティに近づくな!」
でも、一つだけ怖い。
「それを降ろしなさい」
あんな風に笑っていたシフティが燃えるような瞳で、スプレンディドを睨みつけている。その手には拳銃が握られている。あいつにしてみれば、そんなもの玩具も同然だとわかっているくせに。
スプレンディドのことが好きなくせに。
「嫌だね」
二人が睨みあう。
オレはすっかり蚊帳の外。
「こいつはオレの弟だ。
仕事んときでもない限り、見捨てたりなんてできるか」
見たか? この素晴らしき兄弟愛。愛しのお兄様。オレみたいな歪んだ弟を持ってご愁傷様。
あんたが守ろうとしている弟は、あんたの恋を邪魔するしか脳がない馬鹿なんだぜ? 知らないだろ。オレだって知らなかったよ。
「ふーん」
麗しい兄弟愛を見たところで、スプレンディドの感情は動かない。あいつにあるのは善か悪かだけなんだろうな。
「シフティ、わりい」
「お前は馬鹿だからしかたねーよ」
シフティはオレが謝ってるのは、スプレンディドを怒らしたことに対してだと思っている。いや、間違ってないけどさ。本当はお前が嫌われてしまえばいいって思ってたんだ。ごめんな。本気だぜ? 死んで忘れるかもしれないけど。
それにしてもさ、笑うお前はやっぱり好きだ。
スプレンディドに向けてたもんとも違う。オレ専用の笑顔。大好きだ。そうさ、大好きさ!
「ごめんね」
不意にスプレンディドが笑う。
「悪事は嫌いだけど、キミ達は嫌いじゃないよ」
伸ばされた手が下がる。
「え」
たぶん、あいつの謝罪はオレに対して。
隣にいるシフティの顔が仄かに赤いのがムカつく。本当に、ムカつく!
「死ね」
ムカつくから、思いっきり殴りかかってやる。
「はいはい。大人しくしてないとダメだよ」
首が掴まれ、地面に落とされる。
あ、死んだかも。
END