誰も本当の意味ではわかっていないのだ。
 世界の命運を握っているであろう光りの戦士も、ただの子供だということを。
「――っ。……っく」
 眠っているはずなのに、その子供は嗚咽をもらす。
 怖いのだ。戦いも、戦っている自分も、誰かを殺すことも。
 まだ一人でしっかり立つこともできないくらい彼らは子供なのだ。誰か、大人がそばにいて支えてやって、始めて立つことができる。そんな危うい存在なのだ。
 人の死も、戦いも、知らなくていい歳なのに。彼らは知ってしまった。
 精神も肉体も不安定で未発達。そんな子供達が戦場に出ている。大人達は少しばかりの罪悪感を持っている。同情もしている。だが、わかっていない。
 戦いに赴くことで、戦いを続けることで、彼らがどれほど傷つき、涙しているのか。
 手を下しているのは影だから、傷つくことはないとでも思っているのだろうか。人の死を目の当たりにしているというのに。
「……ひっく……。うっ……」
 子供達は夢でも戦いを続ける。戦いを続ける相手は自分自身。
 長く、戦いに漬かりすぎた子供達はどこかで戦いが終わるのを恐れている。この戦いが終わった後、自分達に何か役割があるのだろうか。
 戦い、人々に求められ続けた結果、子供達は自分の存在に意味がなくなるのを恐れるようになった。そして、そんなことを考える自分が恐ろしい。
『マルマロ……。大丈夫ですよ』
 例え、世界中の人々が必要ないと言っても、自分達は必要だと言うから。
『姉御……。泣かないでくだせぇ』
 大好きな人の涙は悲しすぎるから。
『クルック。安心して』
 あなたは自分の道を見つけられるから。
『ジーロ。ガラじゃねーだろ?』
 恐れることなんて何もない。仲間が、自分達がいるのだから。
『シュウ――――』
 泣いている子供達に、自分達は何もできない。
 慰めることも、あやしてやることも、手を握ってやることすらできない。
 それなのに、悲しみや恐怖だけは伝わってくる。どれほど傷ついているのかだけはわかってしまう。
 昼間、その小さな体に押し込めている思いが、夜だけ解放される。他の大人達が気づいていないことに気がついていても、結局は何もできない。そこらの大人と変わらない。
 戦うことでしか子供達を守ってやれない自分達をどれほど恨んだことかと影達は思う。
『辛いなら、全部吐き出しちまえよ』
 戦わせる大人が悪い。傷ついていることに気づいてくれない奴らが悪い。そう言って、力を全部出しちまえ。
 全部消してやる。全部壊してやる。傷つくことも、悲しくなることもない世界を作り出してやる。
 それを、子供達が望むのならば、影達は迷わない。
「世界をっ……守……るっ……」
 だが、子供達は世界を守るというのだ。恐ろしい悪夢にうなされ、涙を流しながらも、この世界を守ると言う。
『お前らが、それを望むなら……』
 世界を守ろう。我が身を滅ぼしてでも。


END