宝石を縛る5つの性
1、緑色の宝玉は、疵を持たずに生まれ得ず。(ボク魔)
生まれながらに、ルカは欠陥品であった。
誰もが持つ属性をルカは持っていなかった。存在するのに存在しないような者として扱われてきた。
そんなルカに存在を与えた者がいた。
『影』であり『魔王』であるスタン。
「貴様の目は宝石のようだな」
人の姿をしたスタンが、ルカの顎を掴み上を向かせる。
太陽の光りのためか、輝いて見えるルカの目はまるでエメラルドであった。
どんなことがあっても傷つかない目。全てを流してしまうような不思議な目であった。
思えば、数々の魔王も、勇者も、科学者も、全てルカと出会い変わっていった。
たいした訓練をつんだわけでもないのに、ルカは立派に戦いをこなす。まるで傷つかないとでもいうかのように。
だが、現実は違う。
生まれながらにルカは傷ついていた。欠けていた。
スタンが、仲間達が消えたとき、ルカは泣き崩れた。小さな疵が全てを壊してしまうかのように。
それでもルカは立ち上がった。そしてスタン達を取り戻した。
「スタンの目も……宝石みたいだよ?」
闇夜でも光り輝くであろう金の瞳を見てルカは言う。
疵は傷つくことを恐れない強さである。
2、同種のモノでありながら、相似を拒む二色(ふたいろorにしき)の石。(オリジナル)
その姉妹はとても仲が悪かった。
姉は近所でも評判の優しい女の子。
ボランティアが趣味といっても不思議ではないような子。
妹は近所でも評判の優等生。
将来は医者か、弁護士か、薬剤師かと思われているような子。
それぞれはとてもいい子で、近所でも評判なのに、どうしてあんなに仲が悪いのか不思議だった。
だから、ある日一人が聞いた。
「どうしてそんなに仲が悪いんだい?」
同じ顔の少女が同時に答える。
「だって、同じ顔が二人もいたら気持ち悪いじゃない」
「だって、同じ顔が二人もいたら気持ち悪いじゃない」
まるでイヤホンで声を聞いているような感覚。
「妹はとってもいい子よ。でも――」
「姉はとってもいい人よ。でも――」
同じ色、同じ形の目が尋ねてきた青年を捕らえ、同じ表情をした。
口を三日月型にした笑顔。
「私達はライバルなの」
「私達はライバルなの」
同じ存在だからこそ。同じ姿だからこそ。
最高のライバルになる。
3、邪魔者扱いされ続け、それでも輝き珠となりて。(NARUTO)
散々いたぶられてきただろう。
散々陰口を叩かれてきただろう。
でも、それも今日で終わりだ。
「はあ?」
とうとうボケたのか? と言いたげな視線をナルトは綱手に向けた。
それもそのはず。綱手はナルトに火影になれと言ったのだ。
表のナルトの夢である火影だが、本当のナルトにとってそれは意味のない物であった。意味があるとするならば、それは守るための物。けっして自分がなるものではない。
「言っておくけど、私は本気だよ。あんたは、明日から正式に六代目火影となる」
目は真剣。酒を飲んだ風もなく、変な物を食べた様子も無い。
いくら火影と言えども、そのような無茶が通るのか? 木の葉の忌み子。うずまきナルトを火影にするなど……。
「不可能ではないさ……あんたの正体を言えばね」
不敵に笑う綱手の言葉に、ナルトは額に汗がにじみ出るのがわかった。
正体とは、九尾を封印しているとかいうことではないはずだ。となれば、暗部で総隊長で微妙に伝説化とされている金蒼がナルトだということをばらしたということで――!!
「なっ?! ちょっ! 冗談だろ?!」
ナルトは慌てて綱手の肩を掴み揺さぶる。今までずっと隠してきたことが無駄になる。その思いを全て綱手にぶつけている。
「冗談ではない。これで、お前も火影だ」
そしてもう誰からも陰口を叩かれるような奴じゃなくなった。
本来あるべき姿に戻ったのだ。
邪魔者が輝くときがもうすぐそこに。
4、夜と昼とで姿を変える、石自身に罪はなく。(うしおととら)
昼。うしおは笑っている。
人間の仲間に囲まれ、妖怪の仲間に囲まれ、誰もが惹かれる笑顔を振りまいている。
花で例えるなら向日葵で、空にあるもので例えるならば太陽であった。
暖かな微笑みに誰もが安らぎ、微笑む。
夜。うしおは嗤う。
悪しき妖怪に囲まれ、片割れであるとらに背を預けて血を浴びる。
花で例えるならば彼岸花で、空にあるもので例えるならば月であった。
妖艶な笑みを最後に絶命していく妖怪と、それを見てとらは笑う。
どうして昼と夜で姿を変えるのかとらには興味があった。
昼間見せる優しげな笑みは、夜間妖怪達に見せる冷たい笑みとは全く違う。
気になる。
もっと違う表情があるような気がしてならなかった。
もっと見たいと願った。
だから問い詰めてやった。昼と夜の表情の差は何なのだと。
「え……? 俺、そんなに違うか?」
どうやら本人は無意識のようで、
「そっか〜。俺もどんな風に違うのかみてえな〜」
などと暢気な声で言う始末であった。
闇も光りも一部とするその笑顔。
5、何よりも硬いその石も、熱には弱く、脆くあり。(学校の怪談)
天邪鬼から見たさつきは、酷く弱かった。
けれども、第三者から見たさつきは強かった。
母を失くしていることを気づかせないほどに、さつきは一生懸命であった。
家事もしている。学校にも元気に通っている。明るく、元気な女の子。
だが、夜は違う。
お化けが出る夜、さつきは酷く脆かった。
恐ろしいだけのお化けならいい。霊眠させてしまえばそれですむのだから。なのに、お化けは恐ろしいものだけではない。
優しいお化けもいる。事情があって人間を襲わざるえないお化け、人間のせいで暴れるお化け、そんなお化けを霊眠させるたびにさつきは悲しむのだ。
「さつき」
小さな身体でさつきを見上げながら名を呼ぶ。
普段の意地悪げな瞳とは違い、優しさに満ちた瞳であった。
「天……邪鬼…」
瞳から涙を流しながら天邪鬼の身体を抱きしめた。暖かな毛皮が心地いい。
「大丈夫だ。あいつらだって楽になったって喜んでら」
尻尾で腕をポンポンと叩いてやりながら慰める。
脆いこの心に安息を。
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