男一匹
「黙って見てろ」(サイクロ)
クロとマタタビが町内を歩いていると、二組の人影が見えた。
一組はクロとマタタビもよく知る者。チエコとゴローの影であった。もう一組はよく知らないが、おそらくその辺りを歩いていたチンピラだろう。
一触即発の雰囲気にクロがガトリングを装着しようとした。ゴローもチエコも大切な仲間であり、たかがチンピラごときとはいえ、殴らせるわけにはいかない。
「キッド」
ガトリングを持っている方の手をマタタビが掴んでクロを止めた。
「何だよ」
不満そうにクロがマタタビを見据える。
「黙って見てろ」
マタタビは真剣な目で二組を見ていた。
「守りたいというお前の気持ちもわからんことはないが、何でもかんでも手を出していてはあいつらが成長しないだろ」
何も失いたくないと願うクロは守ろうとするが、マタタビは一度突き放して強くする術を持っている。
そのほうが相手のためになるということぐらい、クロもわかっている。だが、わかっているだけでそれを実行することができない。突き放すということが恐ろしくてしかたがない。
「…………わかってる」
おとなしくガトリングをしまい、クロも二組を見守った。
きっと彼らは強くなる。
「負ける気がしねぇ」(うしとら)
目の前にいる妖怪達をうしおととらは馬鹿だと笑った。
何せ妖怪達が相手にしようとしているのは自分達なのだから。
獣の槍を持ったうしおと、最強の妖怪と言っても過言ではないとら。この一人と一匹が力をあわせたのならば、そんじょそこらの妖怪がいくら束になっても敵わない。
負けるはずがない。
そんな思いまでうしおは持っていた。
「なあ、とら」
「あぁ?」
嬉しさのあまり思わず言葉を弾ませながらうしおが声をかけた。
「負ける気がしねぇ」
ニッと笑って言いきるうしおにとらはつられて笑った。
確かに負ける気はしない。どんな敵でも、どんな状態でも、それは変わらない。目の前にいる雑魚どもくらい、半刻の時間さえ必要ないだろう。
「わしがいるんだ。当然だろ」
一匹でも十分だととらは言う。十分なのは十分なのだが、やはりうしおがいるのといないのとでは動きが違う。
「行くぜ」
「おうよ」
一人と一匹が飛びだした。
「そんなこと、俺がさせるかよ」(NARUTO)
里を滅ぼす。仲間を殺す。
そんなこと、誰がさせるってんだ。
オレ? オレはそんなことさせない。
守ってみせる。守り通してやる。オレの里だ。オレの仲間だ。オレ以外の誰にも壊させない。
傲慢な考えだと思うか?
「いや、ナルトらしいんじゃないか」
ありがとう。
お前にそう言ってもらえると自分の考えにも自信がつく。オレはオレの考えを曲げずにすむ。
誰にも壊させない。
そんなこと、俺がさせるかよ。
それは決定事項。もしも里が、仲間がいなくなるときがくるならば、それはオレが壊したときだ。
「オレも手伝ってやろうか?」
いや、オレだけの手で、全てを壊す。
オレにはその力がある。全てを壊す力を持っている。
でも、たぶんオレは壊さない。
守り続ける。
「死んでたまるか」(ロマサガ)
目の前にいるのは七英雄に比べれば雑魚にしか見えないモンスター共だというのに、マゼランの周りにいる仲間達は全員地に伏せていた。
大した敵ではなかったとは言え、それなりにダメージを負っていたメンバーには辛い戦いになった。今ではマゼラン以外のメンバーは立ち上がることもできない。
唯一倒れていないマゼランも体中傷だらけで、トレードマークの帽子も何処かへ消えていた。
敵は一匹。こちらも一人。だが五分五分の状況ではない。
死ぬ確率の方が圧倒的に高い。
「…………死んでたまるか」
小さく呟く。他の誰かに向けた言葉ではなく、自分自身に言い聞かせる言葉として。
「ここでオレが死でも、次の皇帝がすぐに現れる……」
それは今までの歴史を見ても確実なこと。自分の代わりなどいくらでもいるのだ。
「オレが死んだら。こいつらも死んじまうだろーが……!」
皇帝の代わりはいくらでもいる。だが、仲間達の代わりはどこにもいない。
個々の職業の代わりはいたとしても、マゼランにとっては仲間達の代わりになりえるものは誰もいない。
死なない。
それを胸にマゼランは剣を握り締めた。
「てめぇ何かに殺されるかよ!!」
「信じろ。それだけでいい」(オリジ)
別にオレは他人に信用されたいわけじゃなかった。
むしろ信用なんて重荷になるだけだと思っていたし、それはオレのすぐ横にいる相棒にだって言えたことだ。
信用なんていらない。ただ傍にいてくれればそれでいい。
誰も縛らず、誰にも縛られず。それがオレの生きかただった。
「信じろ」
だから相棒にそう言われたとき、オレは耳を疑った。オレに、誰を信じろって?
「信じろ。それだけでいい」
オレは誰も信用しない。そうオレはいつも言っていた。だからオレは誰からも信用されなくていい。いつも言っていたじゃないか。
信じられるわけがない。
信じたら負けだ。
信じるのは怖い。
「信じろ。俺を」
力強い言葉にオレは頷かざるえなかった。
ただ、相棒を信用するってのは……悪くない。
始めて人を信用した。
配布元