1.「ずっと前から、好きだった」(ネウロ/ネウヤコ)

 出会いはろくでもないものだったと弥子は記憶していた。
 出会いは素晴らしいものだったとネウロは記憶したいた。
 第一印象は正反対といってもいいものだったが、今では同じ想いを胸に抱いている。それを相手に伝えることはなく。
 学校の帰りに事務所により、ネウロにいじられて家に帰る。ネウロが謎の匂いをかぎつけた日は謎を解くまで家には帰れない。それがもはや日常であり、弥子の楽しみになっていた。
 弥子はいじられるのが好きな性質ではないが、ネウロと時間を共有できるというのはとても甘美なものだった。
「遅いぞウジ虫」
「もー! これ以上早く来るのは無理っ!」
 事務所に入った時の第一声は決まっている。この後はネウロのお仕置きタイムに入るというのも決まっている。はずだった。
「…………どうしたの?」
 お仕置きを楽しみにしているわけではないが、ネウロの様子がいつもと違っていたので心配になった弥子は恐る恐る尋ねてみた。
「うむ。我輩は少々Sでな」
 鞭をしならせながら、ネウロは言う。
「いやいや。少々どころじゃないって! ドが三つくらいつきそうだから!」
 弥子のツッコミも虚しく、ネウロは話を続ける。
「なので気に入った者は虐めているのだが…………」
 その言葉に、自分は気に入られているのだろうかと、弥子が胸を高鳴らせた瞬間、ネウロが弥子をじっと見つめてきた。先ほどの言葉と合わさり、ネウロの瞳は核爆弾級の威力を弥子に与える。
「だが、貴様に対しては、少し違う」
 上げて落とすとはこのことなのだろうか。弥子は奈落の底へつき落とされる気分を味わった。
 違うということは、嫌悪感からくるイジメなのだろうか。今までのどんな拷問よりも辛い言葉に、弥子は薄っすら涙目になる。そんな弥子の様子に気づいたネウロは少しためらいながらも口を開いた。
「ずっと前から、好きだった」
 ネウロの口からでるにはあまりにも不似合いな言葉に、弥子は顔を上げた。そこにあるのはいつもと同じ作られた顔で、赤くなっているなどの告白後特有の雰囲気など微塵もない。
 もしかすると、調子のいい幻聴だったのかもしれないと弥子が思っていると、ネウロは返事を要求してきた。
「我輩が貴様ごときに好きだと言ってやっているのだ。当然返事はこの場でおこなうべできであろう」
 悠然とした態度だが、言葉の端々にはいつもの余裕がないように感じる。
「――もちろん。ずっと前から、好きだったよ」
 顔を赤らめ、ネウロに返事をする。






2.「え、俺たち付き合ってたんじゃなかったの?」(サイクロ/デビクロ)

 クロが今聞きたいことはただ一つ、隣にいるデビルの存在だ。
 ここ最近は面倒な事件もなく、家が壊されることもなく、とても平和な日々が続いていた。
「で、お前はなんでここにいるんだ?」
 デビルは滅多に顔を見せない。一緒に住んでいるマタタビや、度々面倒事を持ってくる剛やミー達と比べると、その差は歴然である。一ヶ月に一度顔を見せればいいほどだ。
 クロの前に姿を見せていない間、デビルが何をしているのかクロは知らない。知りたいとも思わない。ただ、好きだ。好きだと言ってくる割りに、誠意というものが全く見えないというのはどういうことなのだろうかとは思っている。
「んだよ。オレとクロの仲だろ?」
 馴れ馴れしく肩に手を回してくるデビルの手を払いのける。
「どんな仲だ」
 デビルを真っ直ぐ見つめ、問いかけたクロにデビルは唖然とした。
「え、オレら付き合ってたんじゃなかったのか?」
 とんでもない発言をかましてくれたデビルをクロはすぐさま庭に放り投げた。
 顔を真っ赤にし、ガトリングをデビルに向ける。一方、投げられたデビルは痛いと言いつつもニヤニヤしている。それがまたクロには気に喰わない。
「ふざけんのも大概にしろよ?!」
「オレは何度も言ってるつもりだけど?」
 好き。と口を動かす。
「オイラはいつもNOとしか言ってねぇはずだが?」
 一度たりとも色よい返事を返した覚えはない。
「でも、好きだろ? オレ様のこと」
 確信を持った言い方に、クロの頭はパニック状態に陥る。
 デビルから好きだと言われるのは慣れているはずなのに、なぜか顔が赤くなる。デビルの好きだなど、ホコリよりも軽いものだと思っていたはずなのに、何故か胸の奥に重くのしかかる。
「嫌いだ!」
「嘘だ」
 必死に絞り出した声は、一瞬で否定されてしまった。
「好きだ。愛してる。クロもだろ?」
 ゆらりと近づき、デビルは囁く。
 嫌いという言葉が紡げない。
「素直になれよ」
 さらに囁きかけられる言葉。
 堕ちるまでは秒読み。




3.「俺だけのものだからな」(うしとら/とらうし)

 獣の槍を使うたび、うしおの魂は削られていく。白面の者を倒すまでは獣にならぬと言い張ってはいるが、実際のところそれが本当に叶うのか知っているのは獣の槍だけ。
「わしがやる」
 とらがそう言っても、うしおは戦うことをやめない。とらの目にはそれが、早く獣になりたいと言っているかのように見える。本当はとらは知っている。うしおが戦い続けるのは獣になりたいからではなく、自分がそうすることによって、誰かが傷つかずにすむようにしているだけなのだと。
 けれども、とらはそれが気に入らない。
 他人など放っておけばいいと思う。自分のことだけ考えればいいと思う。
「うしおっ!」
 うしおの手を引き、己の懐にかかえこむと、とらは雷で周りの雑魚を一掃した。
「あー。なんだ、できんならとっととやれよなー」
 不満をもらすうしおの言葉にとらは苛立ちを覚えた。
「さっきからわしがやるっつってんだろーが」
「え、マジで?」
「嘘をついてもしゃーねぇだろ」
 戦いに集中すると、他の音を聞き取らないのもうしおの悪い癖だととらは密かに思っている。
「おめぇ、あんま槍を使うな」
 うしおを強く抱き締めると、苦しいのかうしおはとらの背中を何度も叩く。
「んでだよ?」
 なんとか腕の力を緩めてもらうと、うしおは聞き返した。
「おめぇはわしだけのものだ。槍なんかにゃやらねー」
「…………」
 とらの言葉に、うしおは口を開けてとらを見つめる。
 嬉しかったのだ。
 好きだから。とらのことが好きだから、その独占欲が心地よく感じた。
「ん。でも、お前もオレだけのものだからな」
 とらの腕を抱きしめ、うしおが言う。
「しゃーねぇなぁ」
 とらは笑いながら、うしおに抱き締められていないほうの手でうしおを抱き締める。
 お互いだけのものだと確認しあうように。





4.「嫁にもらってやる」(NARUTO/九ナル)

 ナルトも成長し、一般的に大人と言われる年齢になった。親のような役割をこなしてきた紅焔としては、妙に感慨深いものだったりもするのだが、行動はあいかわらず子供のままであった。
「紅焔ー! こっちは終わったぞー!」
 殲滅の任務をこなしたナルトは紅焔の懐へ飛びこむ。
 その動作は可愛いのだが、さすがに二十にもなった男の体を支えるのは辛いものがある。
「まだまだ子供だな……」
 ため息をつくと、ナルトは頬を膨らませ、文句を言う。
 文句の言葉もまだ幼さが見え隠れする言葉ばかりで、紅焔は再びため息をつくことになる。
「オレだって、もう嫁さんを貰える歳なんだからな!」
 紅焔があまりにも子供扱いをするので、ナルトは思わず言ってしまった。
 ナルトの言ったことは間違いではないのだが、殲滅作戦を終えたばかりで、未だ血なまぐさい場所で言うような台詞ではない。
「……そうか。そうだな」
 頷いてみるものの、目の前にいるナルトが女の隣によりそい、自分に紹介する日などきて欲しくないと思った。それはまるで年頃の娘を持った父親のような感情なのだが、紅焔は一味違った。
「なら、オレが嫁にもらってやろう」
 飛びこまれればそれなりの衝撃を生む体だが、まだまだ軽いナルトの体を抱き上げ、紅焔は言う。
「お前をどこぞの女にやるくらいならば、オレが貰ってやる」
 抱き上げたナルトの頬に軽くキスをし、紅焔は笑うが、抱き上げられ、キスされのナルトは顔を真っ赤にし、口をパクパクさせている。嫌じゃないのが不思議だった。
 目の前で笑う紅焔のことをナルトは嫌いじゃなかった。むしろ好きだった。だが、それは家族愛だとずっと思っていた。抱き上げられ、キスされるという状況にならなければ、ずっと家族愛だと思っていたはずだ。
「どうした?」
 顔を真っ赤にして黙ってしまったナルトを心配して、紅焔が顔をさらに近づける。
「紅焔になら、貰われてもいいよ?」
 まだ赤い顔でナルトは嬉しそうに笑った。蕩けそうな瞳がとても美しく、思わず紅焔まで赤くなってしまった。
 紅焔も半分冗談のつもりで言ったのだ。紅焔とナルトは性別で言えば同性であり、種族で言えば異種族である。共にあることなどできるはずがない。
 だが、嬉しそうに笑うナルトを見ていると、紅焔は世の理も、常識も全てどうでもいいと思えた。
「そうだな。なら火影にでも報告するか」
「おう!」
 幸せいっぱいの二人は、その格好のままで里まで帰って行った。




5.「大好き」(オリジナル)

 いつもの笑顔が好きで、からかった時に見せる怒った顔が好きで、時折見せる悲しげな顔も好き。
 ふとしたときに香る髪の匂いも、照れたときに頬をかくその仕草も、全部好き。
 隣にいると、いつも好きが溢れてくる。でも、その好きを全部表現することができなくて、ボクはそっと手を握る。すると、君はギュッと手を握り返してくれて、ボクはとても嬉しい。手から伝わる君の体温はとても暖かくて、心まで暖かくなる。
 君の方をみると、君も嬉しそうに笑っていて、暖かそうに頬を赤くしている。
 可愛いな。そう思った時には君の頬にキスをしていた。君は目を丸くしていて、ボクはとても照れくさくて目線を逸らした。それでも手は繋いだまま。
 今なら言えそう。そう思って口を開いてみたんだけど、口から出るのは当たり障りのない言葉ばかり。昨日誰が何をしたかなんていう話、興味ないよね?
「……あのね」
 ボクの言葉を遮って、君が言う。
「大好き」
 あ、先を越されちゃった。
 でも、真っ赤な顔をした君はとても可愛いから、先を越されてラッキーだったかも。
「うん。ボクも大好き」
 今まで言おうと思っても言えなかったはずの言葉なのに、不思議と簡単に出てきた。きっとこれも君の力なんだね。
「顔、真っ赤だよ」
 そう言われて、始めてボクは自分の顔が真っ赤だと言うことを知った。ちょっと悔しかったから、君も真っ赤だよっていうと、繋いでないほうの手で頬を隠す。本当に君は可愛い。
 君の好きなところなんて、いくらでも言える。でも、全部を言うのは難しいから、大好きって言う。面倒くさがってるんじゃないんだよ? 本当にたくさんありすぎて、とてもじゃないけど二十四時間じゃ足りないんだ。
 せっかく君と過ごす大切な時間を、好きっていうだけで終わらせたくないんだ。もっとたくさんのことをしたいし、話したい。だからさ、大好き。っていう言葉だけで許してくれるかな?




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