【アンバランスな】5のお題

1.きっかけ一つで壊れてしまう(NARUTO)

 ずっと内緒にしてたことがあるんだ。それをオレは絶対に言わない。言ってしまえば、すべてが終わってしまう。
 オレの存在はすごく不安定。それが心地よく感じるようになったのはいつだったかな? 嘘で固められた存在。普通の下忍という偽り。ドベだという偽り。うずまきナルトという偽り。
 それでいいと思ってる。この偽りの上でしかこの里は平穏を手に入れることができないのだから。それはオレも同じ。
「ナルト」
 でも、紅焔の前でだけはオレの偽りはすべてはがれてしまう。紅焔はすべて知ってるから。
「あまり無理はするなよ?」
 昼は下忍として、夜は暗部として働くオレの労働時間はほぼ二十四時間。普通なら死んじまってるかもしれねぇけど、オレなら大丈夫。平気だと笑ってやると、紅焔も嬉しそうに笑う。
 あ、偽った。オレは紅焔の前でも偽るのかと思うと、急におかしくなってきた。思わず笑うと、紅焔は不思議そうに首をかしげる。なんでもないと言ってやれば紅焔はあっさりと引く。お前のそういうところが好きだ。言ってやらないけど。
 知ってるよ。お前も偽ってるって。本当はオレが心の底から笑ってるわけじゃないってわかってるんだよな。でも、オレのために騙されたフリをしてくれてる。
「明日も下忍の任務かぁ」
 つぶやけば、紅焔は笑って頑張れと言ってくれる。この言葉がオレは好き。その言葉がオレのバランスを取ってるって言っても、言い過ぎじゃないと思う。
 オレ達のこの関係も、ほんの少しヒビを入れるだけで壊れてしまう。オレは人間。お前は人間に封じられたバケモノ。こんな風に笑いあってるのがおかしいんだ。
 気づくと、オレの目から涙があふれていた。
「……ナルト?」
 優しく涙をぬぐってくれる紅焔。でも、これも偽りなんだと思うと、涙は止まらない。
 嘘じゃ嫌なんだ。たった一つでいいから、本当が欲しいんだ。
「なあ、紅焔は、オレのこと――」
 意気地なしなオレが言えたのはここまで。ここまで言えただけでもかなりすごいと思う。

 オレは本当に不安定。
 存在が不安定。偽りばかり。オレの気持ちは偽りだらけ。ああ、オレの思いと存在はどこへ行くんだろう。

「ナルト、オレはお前のことを」
 ああ。言わないで。
「愛している」
 オレもだよ。なんて言えないから。オレが言ってしまえば、それは嘘になる。オレから出たものは言葉すらも偽りになってしまう。
 この言葉を望んだのはオレ。でも、この言葉を一番恐れてるのもオレで。オレからあふれる感情は全部嘘。もう何が本当で、嘘なのかわからない。
「こんなの、おかしい」
 そう呟いてしまえば、後は壊れていくだけ。オレは思っていた。
 ふと感じるのはオレを包み込むぬくもり。思わずそのぬくもりに手を回し、ギュッと掴む。オレは紅焔の胸の中にいる。オレの手は紅焔の背に回っている。こんなにも安心するなんて、おかしい。嘘みたいだ。でも、嘘じゃない。
「大丈夫だ。オレとお前の間に、嘘も偽りもない」
 耳もとでささやかれた言葉は優しくて、暖かくて、目から涙があふれた。
 オレは泣く。生まれたての幼子のように。これで明日もまた生きていける。でもな、オレと紅焔は嘘と偽りでできてるから、きっとまた壊れてしまう。もうひびだらけで、修復のあとがたくさんあって、もうこれ以上壊れようがないくらい壊れてる。

 明日にでも粉々になるだろう。
 明後日には塵になるだろう。
 明々後日には消えてなくなるだろう。

 お前の暖かい胸の中で明日に絶望し、オレはまた眠りにつく。


END







2.まるで積み木崩しのような(サイクロ)

 振り返ってみれば、なんと哀れな奴なのだろうかとマタタビは思った。
 せっかくの快晴ということで、屋根で暖かい日差しを浴びながら昼寝をしようとしていたマタタビは青い機械の体をした者に連れていかれている元弟分を見た。
 数年前までキッドは普通の猫だった。
 少し器用だったりと、並みの猫ではなかったが、今ほど無茶苦茶な猫ではなかった。いや、今のキッドは猫ですらないのかもしれない。
 一時は英雄として祭られ、最後には疫病神扱いされ、唯一の仲間であったマタタビに一生消えない傷をつくり、猫としての体を捨てさせられたキッド。
 マタタビは再会を果たしたときから、キッドがどれほどの思いを背負っていたかを正確に理解していた。マタタビが生きていたことにより、多少は軽くなった背中の罪だが、今もキッドは罪にさいなまれている。
 例えば、眠っているときに急に飛び起きたり。空が雲により真っ黒になっているとき。全てを流し去ってしまうような雨の日。そして、マタタビの眼帯を見たとき。キッドは決まって昔と同じ表情をする。
 幼く、弱く、純粋だったころの表情をするのだ。
 本来ならば、大丈夫だと笑って励ましてやるべきなのだろうとマタタビは思うが、それを実行に移すことはしない。あの日から、二匹の関係は確かに変わってしまったのだ。兄弟から敵に変わった。敵から同居人に変わった。
 マタタビの中には未だに復讐の炎が残っている。ほんのわずかな炎ではあるが、それが消えることは一生ないだろう。

「この疫病神が!」

 いつだったか、消防士の女がキッドに言った。
 あの時の言葉がどれほどキッドの心をえぐったかを知っているのはマタタビだけ。

 それでもマタタビはキッドを慰めない。
 励ますことなどしない。
 一生傷つけばいいと思う。
 悲しみを背負えばいいと思う。

 サイボーグとなり、多少のことでは終えることができなくなった人生も、すべて罪滅ぼしのためのもの。
「拙者は知っているぞ」
 マタタビは誰に言うでもなく呟く。
「貴様が恐れていることを」
 仲間に囲まれ、幸せな時がある。それがいつか終わると思っている。それが当然だとあきらめている。

 いつか不幸にするならば、いつか傷つけるなら、いつか嫌われるなら、自分から嫌われてやろう。

 そんな愚かしい考えを持っている。
 マタタビは全て知っている。
 もしかすると、これ以上の思いを抱えているかもしれないが、実際はこれ以下の思いしか抱えていないということはない。
 同時に、マタタビは自分の右目がないことが口惜しい。もしもこれほどの傷を負っていなければ、素直にキッドを抱きしめてやれるのだ。
 復讐の炎よりも、愛する思いのほうが勝っているというのに、何もできずにいる。手を伸ばしたいと思っていても、抱きしめたいと思っていても、何故か冷たい態度しかできない。

 出会ったころに、積み上げていた土台はもろくも崩れさってしまった。
 再会を果たし、無理やり積み上げた積み木は簡単に崩れてしまう。
 何度も積み上げ、崩れる。もしも、いつか、積み木が昔のように積みあがったのならば、言おうと思っている言葉がある。

「愛しているぞ。キッド」

 言える日などくるのだろうか。


END







3.繋ぎとめた最後の一本(うしとら)

 獣の槍を使い続ければ、こうなるとわかっていた。でも、使わずにはいられなかったんだ。
 オレが内側から壊れていくのを感じる。きっと、オレはこのまま獣になるんだ。そう思ってた。だけど、何かが助けてくれるのを確かに感じたんだ。少しずつ、オレを侵食する黒いものが消えていく感覚。後で知ったんだけど、アレは麻子達が櫛でオレの髪をといでた時の感覚だったらしい。
 でも、もう一つあったんだ。オレを寸前のところで引きとめてくれたものが。
 金色で、太陽みたいな色をしたあいつが、オレに言ったんだ。

「人間だろうが!」

 あの言葉を聞いて、オレの諦めかけていた心が、一気に燃え上がった。そうさ。オレは人間だ。獣になんてならない。
 これはオレだけの秘密。
 みんながオレの髪をといて、オレを助けてくれたけど、それだけだったらオレは獣になってた。

 オレが今もこうして槍を振るってられるのは、あの金色のおかげだ。

 絶対に言わないけど、これは間違っていない。あの感覚をオレが間違えるわけがない。
 暖かくて、安心できて、それでいて強くなれる声と姿だった。

 ありがとう。
 お前がオレを繋ぎ止めてくれた。

 他の誰でもない。
 オレを人間として存在させてくれているのは、とら。お前だよ。

 お前がいる限り、オレは獣にはならない。
 お前が隣にいれば、オレはどんな時だって人間でいられる。

 ずっと、ずっと隣にいてくれよな。

END
 








4.頭では理解していても(HTF)

 背筋を駆け抜ける衝動は、抑えなければならないもの。ここは戦場ではなく、平和すぎる町なのだから。
「……っ!」
 それでも、フリッピーはナイフを抜き、手榴弾のピンを抜く。目に映るものを全て排除すれば、この衝動は収まるのだと思い、目に止まるもの全てを破壊する。

 破壊しつくした後に残るのは血なまぐさい土だけ。
 こんなことをして、一体何になるのだろうかと自分自身に問いかける。
『いいじゃねぇか。全て壊せば』
 自分の中に存在するもう一人の自分が言う。その言葉をフリッピーは頭を振って消し去ろうとするが、それでも軍人は言葉をとめない。

『そうすれば、オレもお前も幸せでいられるんだ』

 フリッピーもわかっている。軍人は人を殺したいわけではない。ただ、幸せでいたいというだけ。二つの人格を持っているとはいえ、根本は同じ。ただ、切実に幸せになりたいと思っている。

「ねえ、ボクは幸せにはなれないよ」

 誰かを殺して、幸せになれるとは思っていない。
 人の幸せは、誰かの義性の上にできるわけではない。そんな綺麗事を言うつもりはない。だが、こんな風に血の染みた地で幸せになれるとも思っていない。

『なれるさ』

 軍人はきっぱりと言った。
「嘘だよ。キミは嘘つきだ」
 全てを壊すことで幸せになれるのならば、今も幸せでなければおかしい。
『まだだ』
 そんな声が聞こえたような気がした。
「――え」
 フリッピーは自分の中で、何かが消えたのを感じとった。
 まるで体に空洞ができてしまったような感覚。
「どう、したの……?」
 彼は言っていた。『全てを壊せばいい』
 まだ残っていた。フリッピー以外のものが。

「さよなら」

 自分の体を抱きしめるようにして、フリッピーは呟いた。

『じゃあな』

 そんな声が聞こえてきたらと望みながら。


END








5.つりあわない天秤(オリジナル)

 私とあなた。二人がいたとしましょう。
 生まれた場所も、名前も、性格も全く違います。それでも私達は天秤をつりあわせようとします。

「おはよう」
「おはよう」

 そんな挨拶でお互いの重さを計ります。

「それで、昨日さー」
「マジで?」

 こんな会話で重さを調節します。

 さあ。こんな日々がいつまでも続くと思いますか? 私は思いません。
 人というものは計りしれないもので、理解なんてできないもの。表面上の会話だけでつりあいが取れるわけがない。

「だからっ!」
「そうじゃないじゃん!」

 ときには喧嘩をしたっていいじゃない。
 無理につりあわせようとしなくていいじゃない。

 天秤が常に静止してなければいけない理由なんてないのだから、ぐらぐらと揺らせばいい。
 同じだけ、揺らせばいい。
 私が一を言って、あなたも一を言う。
 それで0になるから。つりあうから。

「もう知らない」
「ばいばい」

 でも、どうしてもつりあわないときってある。私もあなたも一を言ったのに、どうしてかつりあわない。天秤は壊れてしまった。
 それなら、バイバイしてしまいましょ。さようなら。

 少し壊れてみて、さようなら。
 今の私はいい感じ。


END



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