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【素直になれない君へ5のお題】
つんと澄ました天邪鬼(GHS)
大きな愛を持っていても、相手にそれを伝えるとは大変なことだ。
「審判小僧。ちょっとこっちを向きなさい」
「嫌ッス」
何もない暗闇だけの空間にいるのは二人の男。片方はそっぽを向いており、もう一人は必死にこっちを向かそうとしている。
「ワガママを言うんじゃない」
「別に、ワガママなんて言ってないッスよ」
明らかに拗ねた口調で、ゴールドの方を見ようともしない。
審判小僧がこうなってしまった原因は想像がついているものの、打開策は未だに見つかっていない。
「仕方ないだろ?」
「嘘つき」
言葉のキャッチボールなどできるような状態ではなかった。ボールを優しく投げても、返ってくるのは剛速球なのだ。
ゴールドも心が痛まないわけではない。しばらくはホテルにいられると伝えたときの、審判小僧の笑みは今でも忘れられないものだ。だが、急な用事が入ってしまったのだから仕方がない。
せめて、今夜は傍にいようと決め、こうして隣にいるというのに、肝心の審判小僧はゴールドを見ようともしない。
本当は傍にいて欲しいと思っているのだ。ゴールドもそのことはよくわかっている。伊達に親分家業をやっているわけではないのだ。けれども、不満もあって、うまく両立させることができないのだ。普段ならばそんな不器用なところも可愛いと思えるのだが、明日には行かねばならないのに、愛しの子とこの状況は辛い。
「…………」
お互い無言の膠着状態が続く。
「……もういい」
静かに言葉をもらし、ゴールドが立ち上がった。
「え?」
先程までかたくなに目を向けなかった審判小僧が、あっさりとゴールドの方を向いた。
「キミだけにかまっていることはできないんだよ」
少しばかり大きな手を審判小僧の頭に乗せ、乱暴になでる。手を離すと帽子が床に落ちた。
それ以上は何も言わず、無言で扉へと向かうゴールドの背中を審判小僧は瞳に写す。行ってしまうのだと脳が言う。それは嫌だと心が言った。
「……何だい?」
気がつけば審判小僧はゴールドの服を掴んでいた。冷めた目を向けられ、一瞬ひるんだが、すぐに口を開く。ここで言葉を紡げないような口はいらない。
「や、だ……」
「言ったよね? 私はキミにばかりかまっていられない。と」
視線を下げ、かすかに震えている審判小僧へ追い討ちをかける。
「ごめん、なさい」
服を掴む力が強くなった。
「ごめんなさい」
顔を上げると、瞳からは今にもこぼれ落ちそうなほど涙がたまっていた。
プライドからか、それをこぼそうとはしないが、それが余計に哀れに見える。
「本当に反省してるか?」
向き合って尋ねると、審判小僧は何度も頷いた。
「そうか。なら抱きしめてやろう」
手を広げると、審判小僧が胸に飛び込んでくる。
「親分、酷いッス……」
「なぜだ?」
「わざと、やったでしょ」
冷たいフリも、追い討ちをかけるような言葉も、すべては演技だ。審判小僧にもそれはわかる。わかっていたとしても、不安で怖かったのだ。このまま行ってしまったらと考えると。
「天邪鬼にはこれが一番だろ?」
END
素直になれずに後悔するのは(サイクロ)
好きとか、愛しているとか、素直になれない言葉がある。
そんな言葉の代わりに酷い言葉を吐くときもある。相手もそれで笑うから伝わっているのだろう。
「そういや、ここ最近見てねぇな」
「お主本当にそれでいいのか?」
マタタビに最近デビルを見ていないと言われ、始めてここ最近会っていないことを思い出した。普段ならば、頼みもしていないのに現れ、愛の言葉とやらを囁きクロに一蹴されて去っていくはずだ。
甘い関係ではないが、一般的に言うならば甘い関係に入るはずであろうデビルとクロのことを知っているマタタビからしてみれば、現状は呆れるしかない。
元々、男所帯だったため、恋愛に疎いことは知っていたが、こうとまでなるとデビルが可哀想にも見える。
「後悔するのはお主だぞ」
「後悔?」
どうやらクロはわかっていないようだ。
しかし、これ以上の助言は本人のためにもならないだろうと判断し、マタタビは自分で考えろと言い残して居間へ引っ込む。
「……なんだよ」
クロは青い空を見上げながら、デビルがいつものようにやってこないかと思いを馳せる。
「このまま、ずっとこなかったら」
寂しいかもしれないと思った。
同時に、不安が襲ってくる。
今まで放った嫌いも、馬鹿もすべて回収して、それ相応の言葉に代えてやりたい。
「本当に、馬鹿だな」
デビルに投げた言葉なのか、自分自身に投げた言葉なのかはわからない。
「馬鹿って言うなよ。
このオレ様が愛してやってんだからさ」
聞こえてきた声は思いを馳せていた者の声。
「あ――?」
予想もしていなかった事態に、開いた口がふさがらない。
そんな顔を見て、デビルは楽しそうに笑う。そして腕を伸ばし、クロの首へと絡める。
「やっぱ、お前の傍にいねぇとダメみてぇだわ」
いつもの余裕をどこへ忘れてきたのか、デビルはぎこちなく笑う。そのままクロを強く抱きしめた。お互いの冷たい体が触れ合う。温もりは生まれないが、心の中に何かが生まれる。
「おまっ、馬鹿じゃねーの!」
心臓を激しく動かしながら、クロはデビルを突き飛ばす。
地面に尻もちをついたデビルは心なしか悲しそうだ。
「クロ。オレ様はお前を愛してるぞ」
まっすぐに見据えられ、言葉を紡がれる。
デビルはわかっているはずなのだ。クロがその思いに素直に答えることなどできないことを。
愛しているの代わりに嫌いを投げる。
好きの代わりに銃弾を放つ。
「な、お前はどうだ?」
赤い瞳がクロを捉える。
「……馬鹿」
視線をそらし、言葉を吐く。
「…………」
デビルは何も答えず、やはり瞳でクロを捉えたままだ。
視線に耐えられなくなったクロは大股でデビルに近づく。これは殴られると思い、デビルはその瞳を閉じた。
「本当に、馬鹿だ」
耳に声が届くと同時に、頬に何か感じた。
「え?」
「愛してる」
顔を赤くして告げられた言葉は百回の告白にも匹敵する力を持っていた。
END
本当はうれしいけど(鋼)
一つ下の弟は強欲だ。アレもコレもと欲する。その姿は生み出された瞬間から変わっていない。
「兄ちゃん、一緒に買い物でも行かね?」
「ダメですよ。あなたは余計なものばかり買うのですから」
見た目は幼いが、生まれてきた順番からいえばプライドの方が早い。二人が並んでいればよくて弟と兄が逆に見られる。最悪の場合、グリードが人買いだと思われる。
「でもよ、ここには何もねぇじゃん」
グリードはいつも退屈そうだった。一時的にその表情が楽しげに変わったとしても、長い時間の中ではほんの一瞬だ。
強欲の罪を持って生まれた弟をプライドは哀れだと思う。暴食や嫉妬にも同じ思いを抱いている。満たされることのない欲望を持っているというのはどのような気持ちなのだろうか。
「兄ちゃんも欲しいもん買えばいいじゃん」
「私は強欲ではないので、欲しいものなどありません」
父親がいるこの場所でいればそれでいい。今は任されている仕事もないので、のんびりできる。わざわざ外へ行こうとするグリードの気持ちがプライドにはわからない。
ここにいれば何も失わずに、ただ享受できる。なのに、グリードは外に憧れを持つ。
今はまだときどき外へ向かうだけだが、いずれここを出て行くのではないかと危惧していた。強欲ゆえにすべてを失う日がくるのかもしれない。
「な、兄ちゃんは本当に何もいらねぇの?」
プライドにグリードの気持ちがわからないように、グリードもプライドの気持ちを知りかねていた。
何も欲しないというのはどのような気持ちなのだろうか。グリードの瞳はその知識が欲しいと輝いている。
「いりません。ここにいればお父様もいますしね」
グリードの瞳は先ほどまでの光を失い、興味なさげになる。
「ふーん。つまんねぇの」
その場に座り、天井を仰ぐ。暗い天井があるだけで、空も見えない。
「あ! そうだ」
ぼんやりしていた瞳をプライドに向ける。
「知ってるか? 人間は愛を行動に移すとき、こうするんだぜ」
強欲に得た知識を披露するのが楽しいと瞳を爛々させながらプライドに近づく。
身長差を埋めるために、片膝をついてプライドと向かい合う。
「またあなたは下等な種族の真似をして――」
唇が重なる。
「これが愛なんだってよ」
変だよなと続けるグリードの瞳をまっすぐ見つめる。
何故か心臓が高鳴る。この気持ちにつける名前をプライドは知らない。ただ、気づけば手を伸ばし、グリードの唇に己のそれを重ねていた。
「家族愛。とでもいうのですかね」
自分の言葉を頭の中で否定する。これは家族愛などという甘いものではない。たとえるならば、独占欲。
「なんだよ。いつもは下等な種族のやることって馬鹿にするくせに」
グリードは己の頬が赤くなっていることに気づいていないのだろうか。口角をあげて笑う。
「そうですね。私としたことが」
唇をぬぐう。
「な、また一緒に外に行って、これの続きを探そうぜ」
「エンヴィーとでも行ってきなさい」
彼が人間に嫉妬しているのはわかっている。文句を言いながらも、人間を観察するためだと言えば一緒についてくるだろう。
「嫌だ。オレとあいつが仲悪いの知ってるだろ」
むすっとした表情をする。
「それに、オレの上って兄ちゃんしかいねぇし。
オレは兄ちゃんと一緒に行きたいんだよ」
迷惑そうに溜息をついて、プライドは明日ならばと口にした。
「本当か! 絶対だからな!」
嬉しそうに笑うグリードを見て、プライドも自然と口角をあげた。
END
…分かれよ、ばか(NARUTO)
何百年も生きているはずの男は非常に鈍い。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
心配そうに顔を覗き込むが、顔をそむける。
「ナルト、我が何かしたと言うのか」
眉を下げている紅焔は鈍い。ナルトは思わずため息をつきたくなる。
生まれて十数年。気づけば同性の、人外に恋をしていた。そんなことを誰が言えるというのだろうか。しかも、肝心の相手は自分のことを子供のように思っている。
親愛だと偽り続けていた思いだが、これ以上は自分を騙すことができない。ナルトも人並みの人間だ。恋する年頃であるし、思いを実らせたいと思う。さすがにまだ枯れてはいられない。好きなのだ。愛しているのだ。
とはいえ、このことを伝えるという選択肢は存在しない。
断られるのは目に見えている。さらに、自分達の場合はダメだったときの逃げ場がない。何せ体を共有しているようなものなのだ。
いつでも己の腹の中にいる存在と気まずい雰囲気になるのはためらわれる。
「近頃、我に近づこうともしない……。
反抗期というやつか?」
見当はずれな考えをしているが、何も語らぬ自分が悪いことをナルトは重々承知している。
顔を見ることもできぬほど切羽詰まっているとは言えない。
相談するにも相手がいない。下忍の知り合いにはサクラが好きだと言っているのだ。今さらどうすればいいかなど聞くことはできない。
「あーもう!」
ナルトは頭を抱える。
やはり鈍い紅焔が悪いのだと結論付ける。
いくら感情を隠すのが得意なナルトとはいえ、四六時中一緒にいるのに気づかないなどおかしい。狐らしく、困っている自分を見て楽しんでいるのではないかと思ったことは何度もある。
「ナルト」
「ん?」
名を呼ばれ、振り向いてみると、鼻先がつきそうな距離に紅焔の顔があった。
「っ! ば、馬鹿!」
素早く後ずさり、赤い顔を隠す。
「しばらく我は表に出るのをやめようと思う」
「え、なんで?」
真剣な瞳だ。冗談ではないらしい。
「我の顔を見るたびにナルトのチャクラは乱れている。
あまりよい影響とは言えん。原因はわからんが、落ち着くまでは様子を見たほうがいいだろう」
顔に出ぬ同様はチャクラに出る。
チャクラの乱れはわかるのに、感情には気づかないのだろうか。ナルトはむくれる。
「ダメだ」
「わがままを言うな。主のためだ」
「ダメだ!」
これで会えなくなってしまえば、この心はどこへ置けばいいというのか。
紅焔は何もわかっていない。そんなことはわかっていた。
それでも何故、と思ってしまう。
「……馬鹿」
小さく呟いた。
この感情をぶつけてみたらどうなるのだろうか。
END
小さな意思表示(オリジナル)
例えば、名前を呼ぶときに笑顔になるとか。例えば、隣にいるときに口数が多くなるとか。彼女は精一杯の意思表示をしているつもりだ。
「お前って面白いよな」
しかし、彼にそれは伝わらない。
彼女は伝える気がないのかもしれない。小さな恋心をどこかへ置き去りにするために意思表示を小さくする。気づかれないのだからしかたがないと自分に言い聞かせる。
「それはどうも」
「ツンデレかー? 流行らねぇって」
ケラケラ笑う顔を見て、彼女は小さく笑う。
学校の帰り道がもっと長ければ。と思うのは乙女な思考回路だからしかたがない。
仕方ないの連続だと彼女はまた笑った。
「何が面白いんだよ? オレにも教えろって」
楽しいことを共有し合える仲だ。
「あんたに教えたら減っちゃうからダメ」
「ケチー」
もっと言葉を交わしていたいのに、会話は唐突に終わってしまう。
沈黙が痛くて、また口を開く。いつも初めに口を開くのは彼女だった。
「癖って自分じゃわからないよね」
そんな話をする。
彼女が自分でわかっている癖は彼に関することばかり。
「そうだな。あ、お前の癖、一つ知ってるぞ」
彼が彼女の瞳をまっすぐに見つめて言った。
思わず胸が高鳴る。
「な、何?」
「……」
じっと見つめたまま、彼は口を開かない。
「……ないしょ」
「えー!」
散々じらされた揚句、彼は秘密だと口を閉ざす。
「そうだな。ヒントをあげよう」
人差し指を立て、偉そうに言葉を続ける。
「その右手」
指さされた右手は何の変哲もない姿だ。変わったことをしているようには見えない。
彼女が首をかしげると、彼はわからなくていいよと言う。
「教えてよー」
「さっき、なんで笑ってたのか教えてくれたら教えてやるよ」
「それはダメー」
二人は再び笑いあいながら足を進める。
彼女の右手は時折彼の左手へ伸びる。彼の左手はそれを無視する。
「オレはどんな小さなことでも見えるんだぜ」
「じゃあ、向こう側にいる蟻とか見える?」
「いや、それは無理」
「見えてないんじゃん」
見えているのは遠いものではない。近くて、小さな意思表示。
END