「雨、降りそうやな」
「やなー」
 空は曇天。手に傘はない。だって、天気予報なんて見てない。朝は晴れてたし、いらないと思ってた。
「帰ってる途中で雨降ったら嫌やな」
 そんなことを言って、友達と別れる。正直、これがフラグになるなんて思ってもみなかった。
 駅まで歩いている間は天気は何とかもっていた。駅で電車を待つ間、暇なので適当に携帯をいじる。いつものこと。電車がきたら、出てくる人の流れが終わるのを待って、電車に乗り込む。
 たった一駅のためだけに私は電車に乗る。家からの最寄駅は終点なので、人はガラガラ座るのに困ったことはない。
 二分程度待てば、電車は終着駅につく。いつものように降りて、気づいた。
「――生徒手帳、ない」
 いつもスカートのポケットに突っ込んである生徒手帳がない。私の生徒手帳は私にとって財布と同等に大切なもの。というより、年始めに財布を落としてから、買ってない。
 私の生徒手帳の中には、図書館のカードとカラオケのカード。そして、バスの回数券と定期が入っている。このままでは駅から出られない。
 買ってから半年程度ですでにボロボロになりつつある鞄をあさるが、やっぱり見つからない。
 全身の血の毛がひいた。
 生徒手帳の中には住所や、成績もいれている。あまり見られて嬉しいものではない。前の駅の改札は通れたので、落とした可能性があるとするならば、電車に乗ったあの駅しかない。
 私は慌てて元の駅へ戻るために電車に乗りなおす。見つからなかったときの不安と、今の状態に対する不安で、友達にメールを打つ。返事は期待していなかった。ただ自分を落ち着けるためだけのメール。
 電車が発車し、駅に戻り、駅長室へ走る。私が生徒手帳が届けられていないかと聞くと、駅員さんは私に届けられていると言ってくれた。私は体中から力が抜けた。よかった。本当に。
 今度は落とさないように、しっかり生徒手帳をポケットに入れて電車に乗る。往復してしまったため、十分ほど帰るのが遅くなってしまった。
 改札を通り、家までの道を歩こうとした私の目に映ったのは豪雨と言ってもさしさわりのないであろう雨。バスを利用するにも、次のバスがくるのは三十分も後の話。お世辞にも気が長いとは言えない私には待てない時間だ。
 濡れるのを覚悟して、歩くと、大量の雨にブラウスは一気に濡れ、私の体のラインをくっきりと映し出す。
 こういうのは、漫画の中だけ。もしくは可愛い人、美しい人がなっていたら萌えるのに。などと不謹慎なことを考えながら歩く。やっぱり三十分待てばよかっただろうかなどと考え始めたとき、私は自分の視線が下に向いていることに気づいた。
 おかしいと思い、視線を上にあげてみると、雨が目に入り、とてもじゃないが前を向いていられない。
 再び目線を下に戻し、豪雨の凄まじさを思い知った。
 私の家まで約二十分程度。その道のりを歩く間、私はさまざまなことを知った。
 豪雨の日、傘もささずに歩いていると目に水がたまり、目をつぶった瞬間に雨水が涙のように流れてくること。
 鼻で息をすると雨水が入ってきて、だからと言って口で息をすると口の中に水が溜まる。
 服は水を吸って本当に重くなるし、スカートはその特徴であるふわふわ感が全くなくなる。
 そして極めつけは、雨は痛い。
「イタタタタ……!」
 豪雨が強風によって私に叩きつけられる。長袖をきていたおかげで、ダメージは少なかったけど、素肌にあたった雨は冗談じゃなく痛い。ゴムパッチンを何度もされてるような痛さ。大したことないとか言わせない。
 思わず腕を前に出し、顔をガードする。このときにはもう濡れて気持ち悪いとか、寒いとかいう感覚はない。むしろ、当たる雨が暖かい。あ、体が冷え切ってるのか。

 そんなこんなで家にたどりついたとき、全身はずぶ濡れだった。下着まで濡れるというのは初体験だった。
 ブラウスもスカートも、果てはスカートの下にはいていた短パンまで水をしぼることができた。風邪をひいてはこまるので、すぐにお風呂に入ったが、元々濡れていたので、お湯にかかった気がしなかったのが気持ち悪かった。

 こんな日もあるよねって話。


END