軍人が木の根元に座っていた。
普段、フリッピーの人格がチェンジする際は、必ずといっていいほど周りを血の海にする軍人にしては珍しいことだ。

「おや。今日は暴れないのかい?」

たまたま近くを通りかかったスプレンディドが声をかけた。

「オレは平和主義なのさ」

瞳を閉じて、鼻歌でもやりだしそうな機嫌の良さだ。
それにしても、常に殺戮を繰り返している軍人の口から『平和主義』という言葉が出たのはお笑いだ。

思わず笑うと、冷たい目線を向けられる。

「だいたいなぁ。誰だって、大きく見れば戦争主義で、小さく見れば平和主義なんだよ」

少し機嫌をそこねたような口調で言う。

「どういうことだい?」

戦争というものを経験したことがある軍人なので、他人と違った考えを持っていることは不思議ではない。
しかし、その考えの根本がわからない。
軍人はしばらく黙っていたが、下がる気のないスプレンディドの様子を見て口を開いた。

「友達だとか、家族だとか、んなもんには誰だって幸せになってほしい。だから、平和を願う。
だが、大きく、国だとか、種族だとかで見ると、消えればいいと簡単に考える。そして戦争が起きるんだ」

細められた瞳には、スプレンディドではない誰かや場所が映っている。
その目が見ているのは、どこか遠くの戦場なのだろう。

「……ボクは、君の小さい範囲に入っているかな?」

半分冗談。半分本気で言ってみる。

「――ないな」

ニヤリと、瞳をスプレンディドの方へ向ける。

「だろうね」

肩をすくめる。
半分本気だっただけに、ショックはある。

「じゃあね。君が少しでも長く平和主義であることを願っているよ」


「残念。平和主義タイムは終了だ」