秋と言えば、なんだかんだと言いつつも食欲が始めにくるわけで。

「とら、これは?」
「おい、これ喰えんのかよぉ」

蒼月一家は、もはや庭と化している山でキノコや果物を採っていた。
しかし、人間をやめて久しく、人間だったころは都会の方に住んでいたうしおはどれが食べられるかなど区別がつかない。それは生まれて間もない潮虎も同じである。
長年日本に住み、自然の産物について詳しいとらが質問攻めにあうのは当然のことだった。

「あー! いっぺんに言うんじゃねぇ!」

怒鳴りつつも、うしおの持っていたキノコを手に取る。
潮虎を後回しにしたのは、明らかに贔屓をした結果によるものだったが、鈍いうしおは気づかない。

「とら! とーらぁ!」

大好きな母親ととらが話しているのが気に入らない。
自分があきらかに後回しされたのが気に入らない。

「潮虎、順番な」

金の髪を引っ張っている潮虎をうしおは優しく諭す。

「うー」

大好きなうしおから言われてしまっては、これ以上のわがままは言えない。
しかし、とらを困らせてやりたいという気持ちはある。

「……なあ、キノコ採りに行こ?」

潮虎は子供であることを武器にした。
大量にある食べられるかもわからない物はとらに見てもらい、その間に二人で他の物を探しに行こうと誘う。
当然、とらはそれを阻止しようと動くが、先にうしおが頷く。

伸ばした手のゆくさきが消え、空をかく。
上手くいった作戦に、潮虎はニヤリと口元を上げた。