いつも元気な人間だって、ときには落ち込む。
元気な人間の落ち込んでいる姿というのは、どうにもしっくりとこない。励まそうにも、どうやって励ませばいいのかわからない。

「…………」

さらに言えば、とらは励まされたことも励ましたこともない。
膝を抱えてうずくまるうしおに、何をしてやればいいのかわからない。
ただ隣にいてやることしかできないのか、もどかしかった。
いつかしたように、うしおを挑発してやればいいのかもしれないが、今回は落ち込んでいる理由がわからないのだから、下手なことはできない。

「――何があったんだよ」
「…………うるさい」

小さな声で言われた言葉で、心のささくれ具合を察する。

「――散歩でも行くか?」
「行かない」

はっきりとした拒絶に、とらは深いため息をついた。
声をかければ拒絶だが、かまって欲しいという雰囲気をかもしだしている。
面倒なことこの上ない。

「…………」

再び沈黙。
かと思いきや、うしおが口を開いた。

「……わりぃ。面倒だよな」

顔は上げない。

「……ごめんな」

謝罪を繰り返すなど、うしおらしくない。

「うつけが」

うしおの頭を、大きな手で乱暴に撫でる。

「面倒なんざぁ、慣れてらぁ。
けどなぁ、テメェがそんなんじゃ調子出ねぇから……」

乱暴な手がのけられ、うしおは顔を上げた。

「笑ってろ」

照れ臭そうにそっぽを向く。

「テメェの笑ってる顔は嫌いじゃねぇ」

たったそれだけの言葉で、顔がにやけるのがわかった。
単純だと思いつつも、嬉しいものはしかたがない。

「なんでぇ、ニヤニヤしやがって」
「いいだろー」

つらいことも、悲しいことも、全部消し去ってくれる魔法の言葉だ。