月夜の中、金色の獣は少年を抱きしめていた。
誰にも見られず、咎められることもない無人の世界で、少年は金色の獣に腕を絡ませ、口角を上げる。
妖艶。かつ無邪気な笑み。

「なぁ、とら?」

笑みを深くし、見上げる。

「なんだよ」

少年の髪に触れ、優しく撫でながら尋ねる。

「呼んだだけー」

なんだそりゃと、柔らかく微笑みながら獣は少年に口づける。
甘い音が少年の耳に届く。息苦しささえも甘く変わる。
口が離れたとき、少年の顔は赤く染まり、息は荒くなっていた。

「な、なんだよぉ……」

「わしを呼ぶのは安くねぇってこった」

ニヤリと笑う獣の顔は楽しげだった。
少年も答えるように笑い、獣の耳もとに口を寄せる。

「いつまで茶番を続ける?」

囁かれた言葉は風の音と共に、静かに消えた。


(禁忌を犯してみたかった)
(禁忌を見たかった)
  人間と妖怪の
(もうすぐ別れることになるのだから)
(どのみち、短い付き合いなんだ)
  一世一代の茶番劇
(金色に触れて、笑いたかった)
(無邪気な瞳を、覗きたかった)
  幸せに見える表面
(キスをして、愛してるなんて、言ってほしいと思った)
(赤く染まる頬を見て、愛を口にしたかった)
心の内はただただ寒い
(――好きなんだ)
(――好き、なんだろうな)

  愛してる。報われぬ思い。偽ろう。偽りの茶番劇だと。