『相手』
会話をするには相手がいる。
比べるにも相手がいる。
感情を表すのにも相手が必要で、
喧嘩をするにも相手がいる。
どこからか、ガトリングが撃ち放たれる音が響いた。
周りは慌ただしく避難するが、混乱することはない。もう日常と化している一コマなのだ。
「待てぇぇぇ!」
ガトリングを撃ちながら走るのは黒い猫。銃弾を避けながら猫の前を滑空するのは黒いカラス。
「クーロー! このオレ様を倒してみな!」
いつだったか、カラス、トキマツに声がついた。
よく喋るカラスは、飽きもせずクロをからかって遊ぶ。
二人は相性が悪かった。戦闘的な意味で。
攻撃主体のクロと、機動性主体のトキマツ。決着はつかない。
つかないから、町で日常と言われるほど毎日ガトリングの音が鳴り響く。
「待てやぁぁぁ!」
理性を見失っているクロは、ビルでも民家でも構わず破壊していく。
数年遅れで恐怖の大王がやってきたのかと町の人々がぼんやりと考え始めた。
「貴様ら! いい加減にせんか!」
救いの怒声が空気を揺らす。
この声も、もはやお馴染みのものだ。
「あ……。マタタビ……」
「お前が面倒見ないからだろーが」
二つの黒は大工の格好をしているマタタビに目を向ける。
マタタビに対してだけは素直なトキマツなので、ちゃんと話を聞き、反省の色を見せる。
一方、クロはトキマツが悪いの一点張り。
幼なじみと言っても、差し支えない関係の奴相手に叱られている。という事実から目を背けているように見えなくもない。
「まったく……」
マタタビからしてみれば、世話の焼ける弟が増えただけだった。