オリキャラ多数注意。
簡易説明
モーザック→戦士
ファイ→魔術師
関西弁→盗賊
目を開けたらそこは異世界でした。
なんて状況に置かれた場合、通常の人間ならば現実逃避か、とりあえず慌てるという行動にでるだろう。だがこの男は違った。さすがにいきなり異世界に飛ばされたという経験はないが、大抵の不思議現象は見てきたのだ。
冷静に考える。今現在自分は危険にさらされているのかどうか。
答えはYES。辺りはどう見ても輝く石と普通の石しかない。誰もいない。これではこの世界について聞くことも、食料を得ることもできない。
これは非常に危険だ。死んでしまう。
「うぬ……。どうするのだ?」
男と共にいた小さな男の子が不安げに男を見上げる。
「とりあえず人を探そう」
答えた男は清麿と言った。ちなみに小さい男の子はガッシュという。
二人は適当に辺りを歩いてみたが、何もない。同じような光景が延々と続いているだけ。いくら美しい風景とはいえ、飽きてくる。歩くことにも疲れ、同じような風景に精神的にも疲労が溜まり始めたころ、二人の耳に声が届いた。
「あっ! 何かいましたよ!」
少しでもこの状況を打開したい二人は期待に満ちた目で声の主を探した。
「あれは……人間か」
新しい声が聞こえる。どうやらまだ少年らしい。
清麿は新しい声の言葉が気になった。『人間か』どういう意味だ。人間かと確かめるということはあの声の主達は人間ではないということか。もしかすると、自分達は思ったよりも不味いところに来たのかもしれないと考える。
「清麿! アレを見るのだ!」
ガッシュが指差す方向を見ると、そこには二人の男がいた。
片方は青い髪の青年。もう片方は濃紺の髪の少年。どちらの耳も人間のものではなく、わずかに尖っていた。
「間違いなく人間ですね」
「まったく……余計な手間をかけさせよって……」
少年の方が小さくため息をついて清麿とガッシュに声をかけた。
「貴様達、オレ様についてこい」
偉そうな少年の言葉に清麿が嫌そうな表情をしたので、青年が慌ててつけ足した。
「ついてきてくれれば人間界へ返してあげますから」
優しい笑顔が逆にしらじらしく思えるのは、見知らぬ場所へきてしまった緊張感からなのだろうか。
そんな清麿の警戒心に気づいたのか、青年は困ったような表情をした。どうすれば信じてもらえるのだろうかと考えているのだろう。
「まったく……面倒だな」
不満気な表情をした少年はずかずかと近づいてきてガッシュの手を取った。
「お前もすぐについてこい」
そう言うと、少年は首に巻いていたマフラーを大きくして、飛んだ。
飛んでいるという事実に、ガッシュは目を輝かせたが、清麿は目をひん剥いた。まだ羽根を使って飛ぶというのならば、わからないことでもないが、少年はマフラーを使って飛んでいる。
「って、待って! ガッシュをどうする気だ!」
「大丈夫ですから。あの少年に危害を加えるようなことはしませんよ」
青年の瞳をじっと見る。嘘をついているような瞳ではないように感じる。
「魔王城へ案内したいだけなんですよ。
あの少年はあなたにとって大切な人なんでしょ? 迎えに行きましょう」
青年は清麿の手をとって歩き出した。疑いが消えたわけではないが、ガッシュを迎えに行かなければならないのは本当であったし、他に行くあてがあるわけでもないので、清麿は青年と共に歩くことにした。
「ボクはモーザックです」
名のなれたので、清麿も自分の名前を告げた。
「さっきガッシュを連れて行った少年は?」
「ああ、ラハール様です」
先ほどの少年が様付けされているのを聞いて、清麿はラハールの位が高いのだろうと予測したが、だとしたらさっきの態度はかなり不味かったのかもしれないと落ち込んだ。
元の世界に返してもらえないどころか、逆らったということで処刑されるということも、考えられなくはない。
「ラハール様はそんなこと気になさるような方ではありませんよ」
考えていることが顔に出ていたのか、モーザックは清麿を励ました。
それからしばらくは、清麿がこの世界について尋ね、それにモーザックが答えるという会話が続いた。そこで清麿が知ったのはここが魔界というところだということ。そして、どうやらガッシュのいた魔界とは違うらしいということだ。
「別魔界。世界は一つではないですからね。一言で魔界と言っても、何百という魔界がありますから」
魔界が一つではないというだけでも驚きだというのに、モーザックの話では清麿がいた人間界とこの魔界の住人が知る人間界はまた違うものらしいということがわかってしまった。
帰るのがどんどん絶望的になっていっているような気になってきた清麿の足取りは重くなっていく。
「あ、あのゲートをくぐれば魔王城ですよ!」
モーザックが指差す先には、時空が歪んでいるという表現しかできないような穴があった。
「遅い!」
「清麿遅いのだー」
ゲートの前にはラハールとガッシュが待っていた。
「先に帰っててくださればよかったですのに」
「……お前がもっと早くくればよかっただけの話だ」
それだけ言うと、ラハールはゲートの中に入って行った。
「待つのだ!」
ラハールに続いてガッシュが入っていく。
「お先にどうぞ」
モーザックに先を促され、清麿はゲートの中に入る。入った瞬間に気分が悪くなったりするのだろうかと心構えをして入ったが、以外にもまったく気持ち悪くなく、むしろ普通に道を歩いているときの感覚と変わらなかった。変わったのは景色だけ。
「…………ここが、魔王城」
魔王城と呼ばれるのに値する禍々しさがそこにはあった。
「おい。お前さっさとどかんか」
ガッシュとならんでいるラハールに言われ、清麿がその場から離れようとしたとき、後ろからモーザックが現れた。
「っわ!」
清麿は前へ倒れ、モーザックは慌てた。
「大丈夫ですか?!」
「そんな所でぼけっとしている方が悪い」
ラハールの言いぶんは正しいのだが、いちいち清麿の感に触った。
「師匠。またなんか拾ってきたんか?」
興味津々と言ったオーラを撒き散らして、バンダナを巻いた少年がやってきた。少年の存在に気づき、改めて辺りを見回した清麿は、表情には出さなかったものの、動揺した。
悪魔辞典にでも載っていそうな魔物達。見た目は人間っぽい者達。明らかに自分は異端だ。
「……あ、そうだ。王ってどんな人なんだ?」
この世界について聞いていた清麿だったが、王がどのような人か聞いていないことに気づいた。
「…………ああ。言ってませんでしたね」
ラハールが遠くの方で目を見開いているのが何となく清麿にはわかったが、その理由がわからなかった。
「彼。ラハール様こそ、この世界の魔王です」
清麿はその瞬間。『暴君』という言葉が頭をよぎった。
「なんて言うか……大変、だな」
ラハールに聞こえないようにモーザックに言った清麿は、すぐ後に自分の発言を撤回することとなる。
「あまり、そういうことは言わないほうがよろしいかと思いますよ」
笑顔で首筋に剣をつきつけてくるモーザックに、清麿は冷汗が出た。よく見れば、清麿の言葉を聞いたのであろう者達が、今にも飛びかかりそうな目で清麿を睨みつけている。
「……すまない」
よく考えてみれば、本当にラハールが暴君なのだとしたら、ここがこんなに穏やかな空気をしているわけがないのだ。しかも、ラハールは王だというのに、自らの足で清麿達を迎えにきた。正確には迎えにきたのではなく、あの土地の異常を見にきただけなのだろうが。
「いえ。わかってくださればそれでいいんです」
「ガッシュは、優しい王様になりたいんだ」
気づけば清麿の口から言葉が零れていた。
「師匠は優しさとかいうの嫌うけど、ホンマはメッチャ優しいんやで」
関西弁の少年は顔を綻ばせて言った。
「みんな師匠のことが好きやねん」
形は違うが、ラハールもまた、優しい王様なのだということは、周りの者達を見ればわかる。だが、信じがたいという感情も本当なのだ。
このような時代が長く続きすぎたために、他の者達の感覚が狂ってしまっただけではないのだろうか。