ゴッチの思い


 相変わらず無茶しやがる……。
 いつまでたっても悪ガキのままの二匹を相手にして、オレはため息をついた。いや、二匹じゃなかったな。
「ボス」
「あ?」
 新しい部下が控えめに声をかけてきた。
「またあいつらを相手にするんですか?」
 純粋な疑問なのだろう。声には恐怖も憤りも感じられない。
「……いや、もういい」
「そうですか」
 そう言って素直に引き下がって行く部下の背中を見て、オレはまたいい部下を持ったと一人優越感に浸る。
 昔の部下……いや、仲間はいい奴ばかりだった。それはあの二匹も同じことだ。昔から無茶ばかりだったが、自分の意思を曲げないオスネコだった。
 降ってくる雪を顔に受けながら思う。
「よかった」
 本当に、よかった。
 ずっと気にかかっていたことがあった。あの日、あの戦場にいなかった二匹の子猫のこと。
 どちらも癖のあるネコだった。周りとはそれなりにやれていたようだが、やはりどこか浮いていた。グレーやリキのような身も心も立派なオスネコはあの二匹のことを目にかけていたが、それが逆にやっかみの元にもなってたようだしな。
 ……ドッチも、そうだった。
 ドッチに優しくしてやっていたかと聞かれれば、答えはノーだろう。ボスとしてはそこそこやってきたつもりだが、兄としてはやってこれた自信なんぞ欠片もない。
 あいつを止めることができていたならば、何かが変わっていたのかもしれん。
 ドッチがキッドのことをどう思っていたのかは知っている。『疫病神』『災いを運んでくる者』
 確かにキッドがきてからは怒涛の日々だった。多くのことが一度に起こった。しかし、あれは起こるべくして起こっている。キッドのせいでは決してない。
 あの二匹が今日までどんな日々を過ごしていたのかは知らん。だが、あいつらはオレやグレーがいなくとも立派に成長したようだ。
 いい仲間も見つけられたようだしな。ミーといったか? 少々無茶な部分もあるが、あいつらにはピッタリだろ。
「グレー。リキ。賭けはオレの勝ちだ」
 笑う。
 あいつらと賭けをしていた。キッドとマタタビについて。
 不器用で鈍感な子猫達は自分達の恋心に気づくか否か。グレーやリキは一時の迷いだ。時が来れば忘れ、メスネコの尻を追いかけるようになると言ったが、オレは違った。
「言っただろ? あいつらは自分の気持ちに何時か気づき、自分達で惹かれあうと……」
 昔のようにべったりというわけではなかったが、オレにはわかる。あいつらは昔のままの気持ちを持っている。そして相手が自分と同じ思いを持っていることを知っている。
「……いらぬ心配だったな」
 ずっと思っていた。
 もしもグレーやリキがお前達の恋路を邪魔するならば手助けをしてやろう。もしもお前達が思い違いをして別れるようなことがあれば仲介してやろうと。
『邪魔なんてするか。馬鹿』
 ……ああ。そうだな。
『あいつらが選んだ道だ。口出しするつもりなんてさらさらねーよ』
 ああ。お前はそういう奴だよ。
『あんたも大変だったな』
 たいしたことじゃねーよ。
『…………まだこっちにくる気はねーんだろ?』
 もちろん。
『あいつらのこと、よろしくな』
 オレは何もしねーよ。オレが何かする必要なんてない。そうだろ? グレー。


END