珍しい奴から呼び出しを喰らった。
「よー。おっさん久しぶり」
「おっさんって言うな」
 フランスの家に行ったトルコだったのだが、何故か家から出てきたのは銀の髪を風にゆらしたプロイセンだった。
「で、なんでお前さんがここにいるんでぃ?」
「あんたと一緒。フランスに呼び出されたんだよ」
 勝手知ったる他人の家というものなのだろう。プロイセンは家の主の確認もとらずにトルコを家に上げる。
 フランスとプロイセンは良くも悪くも因縁のある間柄だ。この二人がそろっているということは、スペインもきているのかもしれない。なにせ、彼らは悪友として悪名だかい三人組だ。
「おい、スペインの奴もきてんのかぃ?」
「今回は呼んでねーみてぇだったけどなぁ……。
 あ、おーいフランスー! トルコきたぞー」
 乱暴に開けられた扉の先には真剣な面持ちのフランスがいた。
 いつでも飄々としている彼があのような表情を見せるのは珍しいことだ。
「急に人を呼びつけて、どうしたんでぇ」
 フランスと向きあう形でソファに腰をかけると、隣にプロイセンが座る。
「……イギリスのことなんだが」
 途端に、プロイセンが勢いよく立ち上がった。
 トルコはよく知らないが、彼はブログのコメントで『イギリスの料理を食べてほしい』という指令を、果敢にも実行したのだ。結果は予想を裏切らないものだ。
「つ、続けろ」
 声が明らかに硬い。
「これでも、一時期はこのオレが、イギリスのお兄さんだったんだ。
 それなのに、いや、だからこそか? あんなに料理が不味いのは許せないんだ!」
 拳をテーブルに叩きつけて叫ぶ。
 かすかに震えている肩を見ると、フランスがどれだけ本気かということがよくわかる。
「だが、あいつはオレが言ったところで聞くわけがない……」
 顔を上げたフランスは、鋭い眼でトルコを射抜く。
「トルコ! どうにか、あいつに料理を教えてやってくれないか!!」
 手を握り締め、真っ直ぐに瞳を見ている。
「……おい、じゃあ何でオレ様を呼んだんだよ」
 スペインを呼ばないのは納得が行く。未だに過去のことを根に持っている彼の前でイギリスの話などしようものならば、昔とった杵柄を持ち出しかねない。
 トルコを呼んだ理由も簡単だ。何と言っても、トルコ料理はフランス料理と並んで世界三代料理と呼ばれているのだから。
「え、味見係――」
「ふざけんなっ!!」
 フランスの横面を渾身の力で殴る。
 土地を失い、衰えた力でも元軍国の力は小さなものではない。
「お、お前……お、オレに……」
 思い出すだけでも恐ろしいのだろう、プロイセンは自分の体を抱きしめる。
「大丈夫。もう抗体だってできてるよ」
「あいつの料理はウイルスか何かか!」
 ツッコミを入れつつも、あながち間違いではないだろうと心の中でそっと呟いておく。
「頼む! 後でお兄さんがフルコース作るから!」
「い、や、だ、ね!」
 プロイセンにすがりつくフランス。それを呆れた目で見ているのはトルコ。
 他人に料理を教えるのは嫌ではないが、あのイギリスが他人の言うことを素直に聞くとは思えない。プライドの高さだけならば、世界一なのではないだろうか。
「オレもちっと……」
「えぇー! トルコ、お前だけが頼りなんだよ!」
「おい、オレ様はどーでもいいのかよ!」
 喚くプロイセンを無視して、フランスは何かを考え込む。そして唐突にトルコの耳に口を寄せる。
「今度、うちのレストランに二名様、招待するからさ」
「はぁ?」
 仮面の下で怪訝そうな目をしているトルコにウインクを一つ。
「喧嘩したときにでもどーぞ」
 語尾にハートマークでもつきそうな声色だった。
「な、何言ってやがんでぇ……」
「世界のお兄さんであるオレに、愛の秘密事なんてできないのよ」
 見事に張られた胸を殴り、トルコは呆れた視線を送りながらも、フランスの要求を呑んだ。
 文句を言い続けるプロイセンの首根っこを引っ掴み、海を渡りイギリスのもとへと向かう。
「そーいや、おっさん、フランスに何言われたんだ?」
 こんな質問は無視して、地中海に思いを馳せる。今朝も喧嘩してきたばかりの生意気な子供のことと、フランスの言っていたレストランのことを思う。
 自分達に洒落た店は似合わないだろう。似合うとしたら、出店の焼きそば何かだろう。
「ん? なんで笑ってんだ?」
 覗きこんでくる銀の髪をくしゃくしゃに撫でてやった。


END