注意!
プロイセンは海では弱かったとw○kiで見たので、じゃあ泳げないプロイセンってどうよ! と友人に言われ書いたのですが、エープリルフールネタでプロイセンはアメリカと泳いでました。
というわけで、本家の設定丸無視の方向ですが、それでも良ければどうぞ。




 ドイツに戦い方を教えたのはプロイセンだった。ドイツは国としての生きかた全てをプロイセンから学んだ。
「どうしたの?」
 あの大きな戦争が終わった後も、ドイツは日本やイタリアとよく会っていた。それは国としての外交でもあったが、純粋に友人と会いたいという思いもあった。
 時代が変わったためか、ドイツ自身が変わったためか、ドイツはあまり家でゆっくりすることがなくなっていた。家にもち帰るわけにはいなかない重要書類や、国同士の交流を深めるための出張などため、家に帰ることすら少なくなっていた。
「いや。兄貴が……」
 となれば、当然兄であるプロイセンとの交流も少なくなっていた。プロイセンは文句も言わなかっただけではなく、疲れて帰ってくるドイツのために家事をして待っていてくれる。ドイツは兄の優しさを素直に受け取っていたのだが、ある日オーストリアからドイツがいない間のプロイセンの様子を聞いてしまった。
 時たまに、鼻歌を歌って楽しそうに過ごしていることもあるらしいのだが、大抵は悲しそうな顔をして家事をしているらしい。
 国を失くしたプロイセンの体力は、全盛期の半分以下であり、一人では親しい友人達のところへ行くことも難しい。ドイツはオーストリアから話を聞いて、始めて気づいた。家事をしてくれているのはドイツへの優しさでもあったが、他に何もできないという悲しさからの行動なのだ。
 事情を話せば、日本もイタリアもプロイセンを連れて会いに行くことを喜んで受け入れてくれた。
「んー? どうしたヴェスト」
 折角なので、プロイセンが大好きなイタリアの海にきたのだが、プロイセンは一向に海に近づこうとしない。
「あなたは泳がないのか?」
 ドイツが尋ねると、プロイセンはパラソルの下で座りながら笑う。
「いいの。いいの。オレはお前達をじーっくり観察してるから」
 ケセセと、プロイセン特有の笑い声を出してプロイセンはドイツを日本達の和の中に入るよう、誘導する。ドイツとしては、プロイセンに楽しんで欲しいから一緒にきたというのに、自分達が海へ行ってしまってはいつもと変わらないと感じた。
「プロイセンさん。体調が優れないのですか?」
 日本が心配そうに尋ねても、プロイセンは平気だと言うばかり。三人がどれほど言ってもプロイセンはパラソルの下から出ようとしない。無理いじりして三人の中に入ってもらっても嬉しくないので、ドイツはプロイセンを海に入れるのを諦めた。
「じゃあオレ達遊んでくるねー!」
 日本とドイツはプロイセンに後ろ髪を引かれる思いだったが、イタリアはラテン系の特徴を発揮して、二人の腕を引っ張りながら海へかけていく。
「溺れんじゃねーぞ」
 年長者の気持ちなのか、プロイセンは親のようなことを言う。
 ドイツにとっては親代わりのようなものでもあるので、どこか気恥ずかしいような気持ちにもなる。
「いいお兄様ですね」
「……ああ」
 日本の頬笑みに、ドイツは照れつつも頷く。本人には決して言わないが、自慢の兄だと思っているのだ。
 しばらくは三人が海で遊び、プロイセンがそれを微笑ましげに見ているという光景が続いていたのだが、ドイツはどうしてもプロイセンの様子が気になる。
 ただでさえ遠出をしてしまって、体力を消耗しているだろうプロイセンを一人で置いておくのは不安でしかたがない。
「ヴぇー……」
 どこか上の空になっているドイツを見て、プロイセンを見る。
 イタリアの頭に一つの名案が思いついた。
 思いついたならば速実行。イタリアは海から上がり、プロイセンのもとへかけよった。
「ん? どうしたんだイタリアちゃん」
 弟であるドイツと、昔の上司であるフリードリッヒの次くらいには大好きなイタリアが自分のもとへ駆け寄ってきてくれ、プロイセンの頬は自然と緩む。
「あのねー。一緒に行こ?」
 ガシッとプロイセンの手首を掴んだイタリアは、いつもの様子からは考えられないほどの力でプロイセンを引っ張る。幸い、海パンをはいていたため、私服で海に入るという事態は免れたのだが、プロイセンにとっては服などよりももっと深刻なことがあった。
 泳ぐためにどんどん深いところへ行くイタリアに腕を引かれ、プロイセンからは一筋の汗が流れていた。
「い、いや……オレは……」
「早くー早くー」
 ビーチから少し離れた場所で、その様子を呆然と見ていたドイツは、プロイセンの表情に違和感を覚えた。
 イタリアに手を引かれ、本来ならば喜びそうなものだというのに、プロイセンの表情は明らかに暗い。イタリアを止めなければと思うと同時に、強制的にとはいえ、イタリアにプロイセンが連れてくれば、久々に同じ時間を過ごせるかもしれないとも思った。
「あ、ここから深くなる――」
「うわっ!!」
 唐突に海底が深くなる場所があった。そこにイタリアとプロイセンがさしかかったとき、プロイセンが海の中に消えた。突然地面がなくなってしまったため、一瞬沈んだだけだろうと誰もが思った。
「……上がってきませんね」
「イタリア。どうした?」
 日本とドイツは嫌な予感がした。
「………………」
 イタリアは黙って右手を上げる。先ほどまでプロイセンの手を握っていたほうの手だ。どうやらプロイセンが沈んだときに、驚いて離してしまったらしい。
「兄さんっ!!」
 いつもの取り繕った呼び方ではなく、自然な呼び方でドイツはプロイセンを呼び、海中に潜った。
 まさかとは思った。ドイツに泳ぎを教えたのは他ならぬプロイセンだったはずなので、泳げないなどありえないと思ったのだが、体力の低下や、頑なに海に入ろうとしない様子から、もしかすると、泳げなくなってしまっているのではないかと危惧した。
 海へもぐり、ドイツは必死にプロイセンを探した。
「――――っ!」
 ようやく見つけたプロイセンは、どうにか泳ごうとしているのだが、手足が上手く動かないらしく、どんどん沈んでいっている最中だった。
 いくら国とはいえ、息ができなければさすがに死んでしまう。ドイツは慌ててプロイセンの手を取り、海面へと浮き上がった。
「す、まん……ヴぇ……スト……」
 咳き込みつつドイツに礼を言うプロイセンからは、いつもの元気がまったく感じられず、間一髪のところで助け出されたということがわかる。
「いや。もっと早く助けに行くべきだった。すまない」
「バーカ。オレが泳げたら、それでよかった話だ」
 その言葉に、ドイツは一つの疑問をぶつけてみた。
「兄さんは泳げたと記憶しているのだが……」
 乗馬や剣術のように、郡を抜いた上手さではなかったが、決して下手な泳ぎかたではなかった。
「……お前に教えるのは、オレの役目だからな」
 戦い方も、国としてのあり方も、日常的なことも、全てをプロイセンはドイツに教えた。だからこそ、自分が泳げないという理由で、泳ぎだけ別の奴に教えさせるのは嫌だった。
 ドイツに泳ぎを教えるために、プロイセンは毎晩必死に特訓を重ね、どうにか形にした。
 だが、ドイツも立派に成長し、泳ぐ機会が減ってしまっていたため、体はどうにか形にした泳ぎをすっかり忘れてしまったらしい。
「プロイセン兄ちゃんごめんねー」
 さすがに責任を感じたのか、イタリアがくるんを下げながら謝る。
「いや。イタリアちゃんは悪くねーよ」
 まだ完全に回復していないのか、震える手でイタリアの頭を撫でてやる。
「では、ビーチで砂のお城でも作りましょう」
「さすが日本! オレもサンセー」
「そうだな」
「……いいのか?」
 プロイセンの質問には誰も答えず、三人はプロイセンと共に黙ってビーチへ戻って行った。


END