空は快晴。やることは特にない。ドルチェットは屋上で空を見上げていた。
「よっ」
このまま一日を無駄に過ごすのはいくらなんでも、もったいないと思っていた矢先に現れたのは、彼の主であるグリードだ。
「どうしたんっすか?」
「いや、オレも暇でさ」
ドルチェットの横に腰をおろし、空を見上げる。
「高ぇ……」
目を細め、太陽を見る。
この世のすべてが欲しいという彼は、あの太陽すらも欲しいのだろうか。それとも、生まれたその瞬間から闇だった者の憧れか。
「なあ」
何も言えずにいたドルチェットにグリードが話かける。
「人は死んだらあそこに行くのか?」
「……死んだことないから、わかんないです」
あまりにも難しい問いかけだった。グリードの疑問に答えられる者なのこの世にはいないだろう。
「そっか」
小さな声は寂しげだった。
彼は死なない。何度も死を繰り返せばいずれ死ぬと言っていたが、そんなものいつ訪れるのかわからない。ドルチェットが死んで、マーテルが死んで、みんな死んでもグリードは生きている。きっと、今までにも死んでいった仲間はいるだろう。
せめて空からは見ていて欲しい。強欲なグリードは自分の所有物は、死んでも自分のことを見ているべきだと言う。
寂しいのかもしれない。強欲しかない彼は愛も情もわからない。
「ドルチェット」
不意に名を呼ばれ、主を見る。
「いいもん見せてやろうか」
ニコリと笑い、返事を聞く前に己の胸を貫いた。
「なっ! グリードさん!」
「まあ、見てなって」
苦しげに眉を寄せながらも、胸を開く。
「あ……」
そこにあったのは紅い賢者の石。
グリードの核。そして、生まれながらにして背負わされた罪の証。
「綺麗だろ?」
不思議な魅力のある石だった。
グリードが手を離すと、開かれた胸は賢者の石と同じ色の光を放ちながら傷をふさぐ。
「あれがオレだ。あんな小さな石のなかに大勢の人間がいる」
たくさんの生命がつまった石だということは知っている。グリードはそれらを喰らって生きている。
空に浮かぶ太陽のように強い石は、他者の命でできている。ならば、高い場所にあるあの光にも命が集まっているのかもしれない。
「こいつらは、空には行けねぇんだろうな」
瞳は悲しげに伏せられた。
「それでも」
ドルチェットが言葉を紡いだ。
「それでも、オレはできることなら、その石になりたい」
グリードを形成する一つになりたい。
「オレが最後の一人になって、グリードさんと、死にたいです」
馬鹿なことを言っていると自覚している。
グリードを一瞬でも長く生かすためにドルチェット達は存在している。それなのに、死んだときのことを考えるなどあってはならない。
「バーカ」
優しく抱きしめられた。
「お前は空から見てろよ。
オレが世界を手に入れるのを」
最後の瞬間を、グリードは看取ってくれるだろう。今のままの姿で。そして笑ってくれるだろう。
空で見ていろと。
「……それが、命令なら」
「んじゃ命令」
「わかりました」
石になれないのなら、空から見ていよう。もしも、地下につれていかれるのならば、意地でも空に昇って見せよう。
END