ザップはゆっくりと目を開けた。
長い夢を見ていた気がするが、内容は覚えていない。
「もう起きたんですか? 眠っているほうが静かでよかったのに」
「んだと?」
水槽の中からツェッドがザップを見ていた。
「まあ、丁度良い時間ですし、夕飯でも食べに行きますか」
「奢りか?」
「そんなわけないでしょ」
エアギルスを着用し、水槽から上がる。
水滴が彼の肌を伝い、床を濡らす。
近場に置いてあるタオルで彼が身体を拭っている間、ザップはそれをじっと見つめていた。
ライブラの面々は家族のようなものだ。ならば、同じ師匠のもとで修行した弟弟子というのは本当の家族、といっても差し支えないのではないだろうか。
そんな風に思えてしまう。
とはいえ、ザップからしてみれば、そんなものは勘弁願いたい事案だ。口うるさいツェッドが正真正銘の家族、等というのは考えるだけで頭が痛い。
「でも、一人で食べるよりはマシでしょ?」
ツェッドの過去に何があったのかザップは知らない。
同じく、ツェッドもザップの過去を知らない。
だが、確かに繋がっているものがある。
それはライブラであったり、師匠であったり。また、別のものだったりするのだろう。
「しゃーねぇから付き合ってやるよ」
ザップは笑う。
ライブラに入ってから四年の月日が経った。
誕生日を祝ってもらうことを知り、歳を数えるようになった。人によって言葉遣いを変えることができるようになった。仲間が増えた。強くなった。誰かを守ることを知った。感情をたくさん知った。
ザップ・レンフロは今も生き、成長し続けている。
END