悪の組織が本当に『悪』なのかと問われれば、レッドは悩む。
存在自体が悪だと言うこともできるが、レッドの身近にいるフロシャイムの面々はどう見ても悪には見えない。どちらかと言えば、どこにでもある大家族のように見える。
自分に喧嘩を売ってこなければ見逃してやっていたときも何度かあった。というよりも、常日頃からおとなしければ放っておくのだ。
「あの〜。レッドさん? 聞いてます?」
だというのに、何故かフロシャイムの奴らはほぼ毎日レッドにちょっかいをかける。
「あー。聞いてる。聞いてる」
今回は危害を加えにきたわけではないので、適当にあしらおうと思っていた。ヴァンプが次の言葉を言うまでは。
「たまにはちゃんと戦ってくださいよ〜」
いつも通りの情けない声でそう言うヴァンプにレッドはとうとうぶち切れた。
何度も何度も同じような言葉を聞かされた。負けの美学だとかいうものを聞かされたときもあった。だが、レッドが思うのはいつも一つだった。
「なら……真面目にやってやろうか?」
怒気を含んだ声にヴァンプと一号が一歩下がる。
「真面目に、殺しあいを、するのか?」
覆面でレッドの表情はわからないが、殺気が半端でない。
殺られる。ヴァンプの脳が警鐘を鳴らしている。
「マジでやるってのはそういうことだろーが」
けだるそうに座っていたレッドが立ち上がる。握られている拳からは、いつも以上の威圧感を感じる。
そこにいるのは、いつもフロシャイムの面々をボコボコにしているチンピラヒーローでもなければ、情けないヒモのヒーローでもない。ヒーローたる力を持った凶悪犯だった。
「………………」
いつものレッドも怖いが、今回のレッドはいつもとは比べ物にならないくらい怖い。
ヴァンプはあまりの恐ろしさに口を開けないでいる。
「で、でも、レッドさんもボク達に真面目にしろっ! とかいうじゃないですかー」
勇気をふり絞って一号君が言う。
「舐めんじゃねーぞ?」
せっかくの勇気ではあったのだが、レッドの一睨みで塵と化してしまった。
「お前らがマジになったとして、オレがやすやすと殺られると思うのかよ?」
それは思わない。というよりも、怪人達はけっこう真面目にやっているのだ。怪人達の攻撃をものともしないレッドが凄すぎるだけで。
「だが、お前らは違うんじゃねーのか」
それはそうかもしれない。今でも、レッドの機嫌が悪い時はかなりの重傷を負っているのだ。本気を出されればどうなるのかわかったものではない。
「オレは……別に合法的に殺しがしたいわけじゃねぇんだよ」
少し、悲しそうな声だった。
戦うことは苦にはならない。むしろ楽しい。互いに生死をわけた戦いというのをしてみたいとも思う。だが、その相手はヴァンプ達ではない。
すっかり近所でも有名な主夫で、何だかんだで甘い。気づけば友達のような存在にもなっている奴を殺すなど、ありえない。
だからと言って、一般的にみられる友達との付きあい方など、レッドにはわからなかった。例えわかっていたとしても、それをヴァンプに対してできたのかと問われれば、否と答える。
「………………忘れろ」
ぽつりとレッドが呟いた。
「え?」
思わず聞き返す。
「今までの話は忘れろっつったんだよ!!」
そう怒鳴ると、レッドはずかずかとヴァンプ達の前から姿を消した。
ガラでもない話をしてしまった。レッドは一人毒づき、ヴァンプ達はその背中を黙って見送った。
END