体の調子が悪かったクロは、渋々ながらも剛のもとを訪れた。しかし、タイミングが悪かったのか、家には誰もおらず、わざわざ足を運んだというのに無駄足になってしまったとクロは周りのゴミを蹴り上げた。
「あれー? クロちゃん、どうしたの?」
しかたないので、家に帰ろうときびすを返したクロだったが、ゴミの山の中からコタローが姿を現した。
「いや、なーんか体の調子が悪くてよぉ。不本意だが、剛に診てもらうしかねーと思ったんだが……」
「博士なら、ミー君とでかけたよ」
コタローは一人で留守番をしながら使えそうなゴミを探していたらしい。
どちらにしろ、剛がいないのでは話にならない。クロはそのまま去ろうと足を進める。
「あ、待ってよ」
クロの歩みを止めたのはコタローだった。
「ボクに見せて」
そう言われ、クロはコタローが剛に劣らぬ天才だったということを思い出した。むしろ、クロを尊敬しているコタローの方が余計な改造をほどこさないだろうという安心感もある。
クロは二つ返事で了承した。
扉などない、布で仕切られただけの玄関をくぐり、奥へ進むと、外観だけでは想像もつかないような研究室がある。クロはその台に飛び乗り、コタローに調子の悪い部分を教えた。
いつものおどけたようなキャラは何処かへ消え去ったコタローは真剣にクロの体を見る。
「……金属疲労に伴う生身へのダメージかな。クロちゃん、無茶しすぎだよ」
ミーとは違い、未だに生身の部分を多く残すクロは、金属疲労を起こしやすい体質になっていた。
「別にんなつもりはねーんだけどな」
生身のころからしているようなことをしているだけのクロにとって、無茶という言葉はピンとこなかった。ただ、面倒なことになったなというのが正直なところ。
応急処置をしておくね。と言ったコタローは丁寧にクロを手当てする。完璧に直さないのは、自分の腕にそれほどの自信がないからなのだろう。
「ねえクロちゃん。感動のフィナーレ、一緒に見ようね?」
だから、無茶をしないで欲しいということが言いたいのはわかっていたが、クロはできない約束はしない主義だったので、返事はしなかった。
今までの行動が無茶だったというのならば、これからも無茶はするだろう。そのせいで壊れてしまったとしても、それは本望だ。
「こんなこと言ったら怒るかもしれないけど……。ボク、クロちゃんとずっと一緒にいるためだったら、サイボーグになってもいいと思ってるんだ」
コタローの発言に、クロは目を見開いた。
クロはサイボーグになってよかったとは露ほども思っていない。もともと、マタタビ譲りの器用さがあったため、二足歩行もできたし、道具を使うこともできていたからだ。
むしろ、生身の相手と本気で喧嘩をすることもできなくなってしまったし、ジーさん達にサイボーグのことがばれないようにしたりと、余計な手間が増えたと言っても過言ではない。
「……馬鹿なこと言ってんじゃねーよ」
「うん。だから言わなかったんだ」
クロのことをよく知っているコタローは、サイボーグになってもいいなどとクロに言えば、クロが怒ることを知っていた。それでも、思うことはやめられない。
「ボク、まだ子供だけど……クロちゃんのこと、好きだよ?」
「オイラも好きだぜ?」
好かれて悪い気はしない。
「……違うよ。ボクの好きと、クロちゃんの好きは、全然違う……」
コタローが悲しげに顔を伏せるものだから、クロはどうすればいいのか戸惑ってしまった。
ただ、コタローの思いをそのままコタローへ返すのは無理なのだろうと、漠然と考えていた。
「ボクがネコだったら良かったのかなぁ……」
そんなことまで言い出すコタローをクロは慰めることもできない。
「あのな――」
慰めることはできなかったが、言いたいことが一つだけあった。
「オイラはコタローのことが、他の奴らよりも少しだけ、好きだからな」
小さな声で言われたその言葉に、コタローは勢いよく顔を上げる。
「え……?」
「……もう帰る。また明日くるから、ここにいろって剛に言っとけ」
そう言って去って行くクロの頬はわずかに赤く染まっていたように見えた。
END