幽霊。妖怪。現代化学では解明できないものがこの世には腐るほどある。
 クロ達はデビルという存在を知っている。あれもそういうものの類なのだろう。
 だから、そういうものの存在を否定する気はない。
「で、気づいたらこれか」
 クロの目の前にいるのは、腐れ縁というやっかいなもので結ばれた兄弟のようなネコ。だったマタタビである。
 その姿は一見すればごく普通のネコなのだが、その尻尾が普通ではなかった。
「ネコマタって本当にいるんだ……」
 クロの横でマタタビを見て感心しているミーは興味深げにマタタビの尻尾を触る。
 簡単に言ってしまうのであれば、マタタビの尻尾が二つに分かれていた。
「話には聞いたことがあったが、まさか拙者がネコマタになるとは……」
 マタタビは二本になった尻尾を揺らしながら話す。
 ネコマタとは、年老いたネコが変化した妖怪のことを言う。マタタビは生を受けて十五年近くなっていたので、ネコマタになったとしても、なんら不思議ではない。
「まあ。お前、元々化け猫扱いだったし。いいんじゃねーの?」
 昔のマタタビを知るクロは言う。
 確かに、マタタビはその手先の器用さから、化け猫扱いを受けることが多々あった。
「あ、そうなんだー」
 ミーは驚いたような口調で言うが、普通のネコの体だというのに、二足歩行をし、武器を持ち、人の言葉を喋り、さらには家まで建ててしまうようなネコが化け猫扱いされないほうがおかしいだろう。
「尻尾が二本もあるとは……不思議な感覚だ」
 昨日までは一本だった尻尾が、急に二本になったため、マタタビはまだ感覚を掴めずにいる。
 特に不便を感じているわけではないが、建築などの細かい作業はできそうにもない。
「ニ、三日で慣れる。だから、その間くらい家を壊すなよ?」
 ジーさんとバーさんが亡くなった後も、クロとマタタビはフジ井家に住んでおり、剛の死後、ミーもフジ井家に加わることとなった。今は時折やってくるかつての仲間達と共に穏やかに暮らしていた。
 穏やかとはいっても、喧嘩もすれば暴れもするので、月に一回ほどの周期でフジ井家は新築されている。
「わかってらぁ」
「少なくとも、ボクはそんなに暴れないよ」
 二匹は笑っているが、マタタビは笑う気にはなれなかった。
 この二匹の暴れないという言葉ほど信用できないものはない。
「んだと?! それじゃあ、オイラは暴れるってのか!」
「そーじゃないか」
 現に、今にも二匹は暴れ出しそうだ。マタタビはため息を一つついて、静かに家から出て行った。今すぐにでも木材を手に入れておく必要がある。
 マタタビはいい加減に建てなれてしまった家の骨組を頭で考えながら歩いていく。
 結局のところ、ネコマタになってもやることは変わらないのだ。
「兄貴は辛いねぇ」
 クロがおいたをしたら、マタタビが責任をとる。それは昔からの約束なのだ。


END