もっと真剣にやるべきだったんだ。
剛に船を作らせるとか、人通りの少ない道を通るとか……。
そうすりゃ、こんなことにはならなかったんだ。
コタローは悲しい思いなんてせずにすんだんだ。大切なヤツを失わずにすんだんだ。今頃船で笑っていられるはずだったんだ。こんなところで悲しげに眠っているはずがない。
金色はもう見えない。海に消えていった。
コタローは目が覚めたらどう思うんだ? きっと泣く。絶対泣く。あのライオンはコタローの友達だったんだ。あんなに必死になって助けようとしてたんだ。大事なヤツなんだ。
コタローはオイラが助けに行ったら喜んでたな……。オイラなら何とかしてくれると思ったんだろうな。『道なんざいくらでもこじ開けてやる』って言ったのにな。ごめん。
結局、ボク達は何の役にもたてなかった。ううん。もしかしたら悪化させたのかもしれない。
だって、コタロー君は大事な人を失ったんだもん。ボクにはわかるよ、その気持ち。きっとクロにもわかる。だからクロはじっと海を見つめてるんだ。
ダンクの血と、夕日で赤く染まった海をクロはずっと見つめている。
「なあクロ…………」
これからどうすればいいんだろうと聞こうと思った。コタロー君にはどう謝ったらいいのか、とりあえずコタロー君をどこに運ぼうか。でも、クロはボクの言葉なんて聞いていなかった。
「クロ?!」
クロは何の迷いもなく海に飛びこんだ。
まさか、そんな…………! クロは防水化工されてない。海になんて入ったらすぐに錆びてしまう!
コタロー君とダンクのことを気に病んで自殺?! クロに限ってそんなことはないと思うけど……。
不安だなぁ…………。
赤い。赤いは悪い。
ああ、そうだ。助ければいい。手を伸ばせばいい。手が振り払われようと、伸ばし続ければいい。
海に飛びこんだ。防水化工されてないオイラの体には海水はヤバイ。だけど、んなことどうでもいい。
海は広い。広い海を泳ぐ。どんなささいな欠片も見逃ねぇように目を凝らして泳ぐ。
見つけた。色鮮やかな金色。
「……見つけた」
抱き上げる。ちょっと重いけど……ま、どうにかなるだろう。
海から這い上がってきたクロは背中にダンクを背負っていた。
「……せめて、死体くらい見せてやろうってのか?」
「バカなこと言ってねーで、コタロー背負え」
いつもみたいな暖かい雰囲気はどこにもない。淡々とした口調が少しだけ、怖かった。
クロの後ろをボクはコタロー君を背負いながら歩いた。
今度は失敗しないように慎重に、ゆっくりと、人通りの少ない道を選んで歩いた。
ついた場所はボクと剛くんの家。クロは家の前にダンクを降ろして、ゆっくりと家の中に入って行った。
剛は家の中でのん気に飯喰ってやがった。とりあえず一発殴っておこうかと思ったけど、頼みごとがあるから我慢しておく。
「剛……あいつをサイボーグにしてやってくれよ」
オイラは外に置いてきたダンクを指差す。
「…………………」
剛は黙って家の外へ出て、ダンクの体を調べる。無数の銃痕が痛々しい。
ダンクがもう生きていないと確認した剛はオイラに目を向けた。
「……クロ、何故お前がこのライオンを助けたいのかは聞かん」
そう告げると、剛はダンクを家の中へ運ぼうとする。どうかんがえても剛一人の力じゃ無理だから、オイラとミー君が協力してやった。
「だからクロ」
何とか研究室の方にまでダンクを運び終えると、剛がさっきの続きと言わんばかりに言った。
「そんな怯えた表情をするな」
……………………………………ふざけんな。オイラが怯えてる…………? そんなわけねーだろ。
『本当に?』
ああ。
『じゃあさっきから浮かぶあの映像はなんだ?』
何を言ってる?
『赤い血。抑えられた右目。後悔と懺悔』
うるさい。
『お前と関わった奴はみんな不幸になる。そして、最後には死ぬんだ』
あいつは死んでない。
『本当にそう思ってるのか?』
…………。
『お前はコタローを不幸にした。お前はダンクを殺した』
違う。違う。違うっ!
クロの様子がおかしい。ぎゅっと拳を握り締めて、ずっとダンクを見てる。
剛くんの腕を信じてないわけじゃないはずだ。こういうところに関してはクロは剛くんを信用してる。
何か思い出してる? そんな感じだ。
ボクはクロのことをそうよく知ってるわけじゃないけど、クロはクロで辛い目とか、悲しい目にあったんだと思う。そしてたぶん、今回のことがクロに何かを思い出させている。
ここでダンクを救えなかったらクロはどうなるんだろう? きっとすっごく気に病む。
「大丈夫。絶対助けるよ」
剛くんを信じて。絶対なんてないけど、きっと助ける。そしたら、クロの中にある何かも、少しは軽くなるんじゃないかな?
END