キッドのいた群れにメスはいなかった。
 メスは足手まといになるし、女の奪い合いになったら群れが乱れるというゴッチの考えからだった。
 そのため、オス達は発情期になると、こっそり群れを抜けてメスを探しに行った。そしてこっそり帰ってきては何食わぬ顔でいつも通りの生活を送る。
 それは暗黙の了解として周りは受け入れていたが、群れの中に二匹だけ、それを理解することができないことができなかった子がいた。
「なあ、マタタビ。あれなんだ?」
 群れの仲間の一人が逢引中のメスネコと会い、お子様には見せられないようなことをしているのを見てしまったキッドが、隣にいたマタタビに尋ねる。
「……さあ?」
 だが、キッドとそう変わらない歳のマタタビがその行為を知っているはずもない。
 オスネコの下にいるメスネコは気持ちよさそうに声を上げているが、それを聞いたところでキッドとマタタビは何も感じない。むしろ、何がそんなに気持ちいいのか聞きたいくらいだった。
 さすがの二匹も、今の状況はのこのこ出て行っていいものではないことぐらい察することができたので、物影からこっそりその行為を見ることしかできない。
「グレーのおっちゃんに聞いたら答えてくれるかな?」
 言ってみるが、なんとなくグレーが困るだろうなということは想像できたので、本気で聞くつもりはない。
「あ、何か終わったみたいだぞ」
「マジ?!」
 行為が終わったのか、メスネコがオスネコから離れる。このままではこっそり見ていたのがばれてしまうかもしれないと思った二匹は、慌ててその場を離れることにした。
 自分達の寝床に帰る間も、二匹の頭にはさきほどの行為の意味がぐるぐる回っていた。
「マタタビ。あのメス、すっごく気持ちよさそうだったな」
「ああ。そんでもってすごく幸せそうだった」
 二匹の頭の中には、オスに対して好きだの愛してるだの言い続けていたメスネコの声が再生されている。
 あんなに気持ちよさそうで、幸せそうな行為が悪いことのはずがない。きっとグレーも怒らない。例え怒られるようなことだったとしても、ばれなければ問題ない。
「なあ……」
「うん……」
 皆まで言わずとも伝わる。
「やってみる……?」
「キッド、お前が下だからな」
 マタタビの発言に、キッドは不服な表情をするが、先ほどの二匹も、気持ちよさそうかつ楽そうだったのは下にいたメスネコだったので、キッドは渋々ながら了承した。
 二匹は向かい合う。これから先ほど見た行為をするのかと思うと、ドキドキした。心なしか、体温が上がってきたような気もする。
「や、やるぞ?」
「早くしろよ……」
 一度了承してしまったので、もう後には引けないが、キッドはあのメスネコがどのような声を出していたのか思い出してしまい、急に恥ずかしくなってきた。
 そっとマタタビの手がキッドの体に触れる。
 いつも触れられているはずなのに、不思議といつもと違った感覚がある。
 キッドの体を抱きしめ、そのままゆっくり地面に押し倒したマタタビは毛づくろいをしてやる。いつもやってやっていること、やってもらっていることだというのに、やはり何かが違う。何か、違う感覚がキッドの体を襲う。
 行為の意味も、やりかたも知らぬ二匹は見よう見真似で行為を進めていくしかない。
「何か……変だ……」
 キッドが震えた声で呟いた。
 その声があまりにも弱々しかったため、マタタビは何かを間違えてしまったのだろうかと、慌ててキッドの顔を見た。
「……キッド?」
 マタタビの視線の先には、瞳を潤ませ、少々息が荒いキッドの姿。
 何故か心臓が高鳴った。
 吸い込まれるかのように、キッドの口と己の口をあわせ、舌を絡ませた。
 何も知らぬ二匹は本能が教えられるがままに舌を動かす。ぎこちない動きだったが、それは確かに大人達がするものと同じ行為だった。
「……はっ……ん……」
「――!」
 今まで聞いたこともないような声をキッドが出した。
 まるで先ほどのメスのような声に、マタタビは驚き、目を見開いたが、すぐにいい気分になった。
 あのキッドが自分の下で、あのメスネコのようになっていると思うと、何故か嬉しくなった。もっとあのメスネコに近くなればいいと思ったが、マタタビもキッドも、これ以上先のことは知らなかった。
「マ……タタ…………ビィ……」
 瞳を潤ませたキッドがマタタビを呼ぶ。
「なん――?!」
 何だと尋ねようとしたマタタビの口にクロが口づけをした。先ほどと同じ行為なのだが、キッドからしてきたことに大きな意味があった。
 甘く、刺激的な口づけを二匹は何度も繰りかえした。またたびの木よりも甘美で、脳がとろけるその行為に二匹は虜になってしまった。
「キッド……」
「んっ……なに……?」
 口を離し、マタタビがキッドに言う。
「これ、グレーのおっちゃんには内緒な」
「……? う、ん……」
 きっとこれはグレーに怒られると感じたマタタビはキッドに口止めをし、再び口づけを交わした。



END



+めずらしくあとがき+
何か血迷ってますね(汗)
ま、まあ、このくらいのエロなら許される! ……と、いいな。
本当は猫の交尾ってメス側がものすごく痛いらしいんですけど、サイクロの世界ならこういうのもありかと思い、書いてみました(笑)