目を開けると、部屋が心なしか明るくなっていた。
「よっ。お疲れ様」
「……――――?」
 笑顔のめぐみに言葉を返そうと、口を開いたが肝心の声がでなかった。
 怪訝な顔をしたクロに気づきつつも、めぐみは状況を説明しようとせずに、逆側の方を向いて手を振った。
「目を覚ましたよー」
 途端に騒がしい音が耳をつく。
「ようやく起きたのか」
「もー。心配したんだからね!」
「師匠! お帰りなさい」
「クロ、ありがとう……」
 チエコが涙を浮かべながらクロの前で膝をつく。
 記憶の中のチエコは青い顔をして眠っていたものだ。ますます現状がわからなくなる。
「三日ぶり、よ」
 めぐみが時計を確認しながら言った。
「あんたは三日間眠り続けてたの」
 目を丸くして周りを見ると、他の者達も頷いてめぐみの言葉を肯定する。
 つい先ほどゴローの中へ入ったばかりだと思っていたのに、現実の世界ではかなりの時間が経ってしまっていたらしい。
「ゴローもそろそろ目を覚ますんじゃない?」
 その言葉に反応するかのように、ゴローの指がわずかに動いた。
 ゆっくりと開かれる目に、チエコが涙をこぼした。
「――――」
 クロ以上に眠り続けていたゴローは虚ろな目でチエコを見る。
 筋肉も落ちてしまい、まともに動くこともできないようだ。クロの方も立ち上がることができず、悔しそうな顔をしている。
「じゃあ、ゆっくり花でも見ながら帰りますか」
 マタタビがクロに肩を貸し、ミーがゴローを背負う。
 城の外には桃色の桜が咲き乱れていた。暖かい風に運ばれ、仄かに桜の香りが漂ってくる。
 クロはゴローに視線を向けると、目があった。言葉が出ないので目線だけで思いを伝える。

『ま、こんな世界もいいんじゃね?』

 桜の花びらの中、ゆっくりと歩く。一体いつになれば次の町へつくのかはわからないが、大した問題ではない。何せ、一人ではないのだから。
 仲間達と歩く世界は明るく、暖かい。
「おーい」
「あ、剛君!!」
「走っちゃダメー!」
 桜吹雪の向こう側からよく知っている二人が手を振っていた。
 親愛する王の姿に走りだしたミーをナナが止める。チエコは彼の背中にいるゴローを心配そうに見つめた。
 クロは少しだけ笑った。

『生きるよ』

 ゴローは目を細め、ミーの背中にしがみつく。これからの生にすがりつくように。
「あれ? その人達は?」
 首を傾げたコタローにミーとナナがマタタビ達を紹介する。




 昔々のお話です。
 一人の勇者と、黒魔術師と、白魔術師が旅にでました。
 彼らは盗賊と出会い、魔女と、その夫と出会いました。
 寂しがり屋の魔王は大好きな少女と一緒に、彼らの国で暮らすことになりました。
 それは、とてもとても幸せな日々でした。


END