放置された火は森を全て燃やし尽くす前に、近隣の住民によって消された。
「……アタイ達のせい……だよね」
 全焼は免れたものの、ほぼ半焼してしまった森を見てナナは呟いた。メンバーの誰かが火をつけたわけではないが、あの場で火を消せていればこれほど森が焼けることもなかっただろう。
「オイラは魔法を使えねぇし、ミー君も水系は専門外だ。あの場ではどうしようもなかった」
 火を消せなかったということよりも、クロには引っかかっていることがあった。
 あの火は誰がつけたのだろうかということ。
 火を恐れていたニャンニャンアーミーがつけたということは考えにくい。それはミーも同じ。ナナは炎系の魔法を使えないので論外。クロ達の知らない誰かがいたとしか考えられない。
「キッド。お前のせいだ」
 ナナと一緒に半焼してしまった森を見ていたクロの背後から、囁きかけるような声がした。
 クロは目を見開き、ゆっくりと振り向く。
「……クロちゃん?」
 明らかに様子の違うクロを見て、ナナも後ろを見る。
 そこにいたのは右目に眼帯をつけた青年だった。
「生きて、たのか……」
 脱力しきったような声を出し、クロは未だ目を覚まさないミーを地面に落とした。同時に、クロ自身も膝を地につける。安心や、喜びのために力が抜けたのではない。絶望と、悲しみのあまり力が抜けてしまったのだ。
 その証拠に、クロは眼帯の青年を見ようとしない。
「ゴッチも生きてる。火をつけたのはあいつだ」
「……そっか、ゴッチも……」
 乾いた笑い声を出す。
「あいつは拙者以上にお前を憎んでいる」
「ああ。そうだな」
 二人は顔見知りのようだが、ナナは目の前にいる青年が何者なのか、まったくわからない。こんなにも力のないクロを見るのは始めてだった。まだ出会って間もないとはいえ、その強さだけはよく知っているつもりだった。
 ナナは勇気を振り絞って口を挟んだ。
「あなた、誰なの?」
 青年は始めてナナの存在に気づいたようで、頭の先からつま先まで、値踏みをするかのように見た。
「キッド。お前、また不幸にするのか」
 その言葉に、クロは明らかに動揺した。体を小さく奮わせている。
「ち、ちが……」
「違わないさ。拙者や、仲間達にしたように、またお前は人を不幸にする」
 青年の言葉はクロを傷つけていく。
「クロちゃんは、そんなことしないもん!」
 ナナが杖で青年に殴りかかる。ナナの攻撃を悠々とかわすと、青年はニタリと笑う。
「名を変えたのか。それで全て終わらせたつもりか?」
「やめてよっ!」
 青年の言葉を聞いて、クロが傷つくのは耐えられない。
「教えてやろう。キッドの罪を」
 心の底から楽しげに笑って青年は語る。

to be ......