外は雨が降っていた。
ミーとマタタビとクロの三匹は剛とミーの家にいた。家というにはあまりにもぼろすぎて、今もいつ何時雨水が入ってきても不思議ではない状態であった。
何故そんな所に三匹がいるのかと言えば、ひとえに『家が壊れている』からに他ならない。
いつものようにクロ率いる壊し屋軍団が藤井家を破壊し、マタタビが家を直していた。マタタビももう慣れたもので、今日中に直せるだろうと思っていたところ、雨が降り出したのだ。
そういえば天気予報で雨だと言っていたなと思いつつ、クロとマタタビはジーさんバーさんをホテルに連れて行ってくれるように剛とコタローに頼んで、自分達は先に剛達の来たというわけだ。
「暇だな」
切り出したのはクロであった。
確かに三匹だけのこの空間はあまり楽しいものとは言えなかった。外は雨で、ヘタに暴れると今日一日濡れ鼠になるので、基本的に三匹はじっとしている。
「…………」
ミーもマタタビも返事をしない。
嫌な予感がした。確かに暇だが、クロの言葉を肯定するにはあまりにも不安要素が大きかった。何せ、先ほどまでクロはずっとその辺りを探っていたのだ。
何か見つけたに違いない。
「なぁ。楽しいこと、しよーぜ」
ニヤリと悪魔的な笑みを浮かべたクロの表情に二匹はぞっとした。この笑みを見て、いいことがあったためしがない。
「ほらよ」
クロは銃を一丁テーブルに投げた。
クロやミーが使っているようなガトリングではなく、その他の派手な銃器でもない。ごく普通の。一般的な小型銃であった。クロはそれを二匹にしっかりと見せて、リボルバーに銃弾を一発だけ込め、リボルバーを回した。
入る銃弾は六発。入れた銃弾は一発。これだけ見れば何をするのかは大体察しがつく。
「んで、こう」
言うや否や、クロは何のためらいもなく己のこめかみに銃をつきつけ引き金を引いた。
カチャンと軽い音がして、クロはこめかみから銃を離した。
「銃弾が当たったら負け。でも、銃弾があると予想して天井にぶっ放しても良し。本当に銃弾があったらそいつの勝ちな」
時計回りだから次はマタタビなと、クロは銃を投げ渡した。
「…………わかった」
しばらく沈黙していたマタタビだが、覚悟を決めたのか銃をこめかみに当てた。
「マッ……マタタビ君! 無茶はよしてよ!」
当然ミーが止めに入った。
クロやミーはサイボーグである。頭を撃ち抜いても生き残る確立はある。だが、生身のマタタビは簡単に死んでしまう。明らかにマタタビには危険なゲームだ。
だが、マタタビはミーの忠告を聞かなかった。もう退くことはできないのだ。オスネコの誇りにかけて。
マタタビが引き金を引く。
カチャン。と静かな音がした。
「……次はミー君だな」
クロもマタタビもやった。ここでミーが退くことは許されない。例え許されていてもミーは退かなかっただろう。彼にもオスネコの誇りがある。
ミーは無言で銃をこめかみにつきつけた。
もしかしたら、ここに弾が入ってるのかもしれない。死ぬかもしれない。最愛の人を残して。怖い。そう思うミーを誰が責められるだろうか。
責められるのはただ一人。ミー自身である。クロは平然と引き金を引いた。一番手だということで、確立が低かったということもあるだろうが、それだけではない気がする。
マタタビはためらいを見せたが確かに引き金を引いた。オスネコの誇りは伊達じゃない。
ミーも覚悟を決めた。息を大きく吸い込み、引き金を引いた。
カチャン。と音がした途端に空気が軽くなったような気がした。
「じゃあもう一周だな」
最高で後一回ずつ回る。誰かに当たるのだ。
誰ももう止めることはない。止めればそれは恥だ。互いに一度引き金を引いたことによって、もう止めないという契約書を持っているようなものになっているのだ。
「いくぞ」
再びためらいもなくクロがこめかみに銃をつきつけた。
しばらく沈黙が空間を支配した。
ああ、クロも怖いのかと、二匹が思っていると、クロは銃を天井に向けた。同時に引き金が引かれる。
ガトリングほどの衝撃はないが、中々の衝撃がボロ屋に響いた。
「オイラの勝ち。だな」
クロが笑う。まるでこれを予測していたかのように。
END