『死が蝕む体』
剛が死んだ。ミーが死んだ。マタタビが死んだ。ナナが死んだ。死の連鎖。
今度はオイラの番。もがく気なんてない。
たくさんの死を見てきた。生まれた瞬間からオイラの周りは死で溢れてた。それはオイラが野良だったからってのもあるだろうけど、オイラがオイラだからって理由もあったんじゃねぇかな。
オイラは『疫病神』だからな。
剛が死んだとき、グレー達を思い出した。悲しかったけど、それよりも悔しかった。なんでみんな死んじまうんだ? 何でオイラを置いていくんだ?
ミー君はオイラが壊した。オイラが殺した。後悔なんてしてねーよ。あれが一番いい方法だった。たぶんな。
あいつにとって、剛が全てだった。剛が死んだ世界に興味はないはずだ。剛のことだから、ミー君に自殺を制限するプログラムでも仕込んでんじゃねーかと思ったら案の定だ。
だから壊した。殺した。
正直、マタタビが死んだのが一番辛かったかもしんねぇ。オイラを『キッド』と呼ぶただ一匹の猫。ミー君が死んだ後も二人で暴れた。悲しいとか、悔しいとか、全部忘れさせてくれた。
でも、死んだ。しかも桜町から出て行って死体を見られねぇようにしようとしやがった。探し出して、見つけて、愕然とした。本当に死ぬ。弱った体。一体いつからだった? 今まで暴れてたじゃねぇか。
ああ、そうか。オイラに付き合ってくれてたんだな。忘れさせてくれてたんだな。
世話になりっぱなしじゃねーかよ……。
そんでナナが死んだ。何もかも失ったオイラの傍にいてくれたナナまで。体中をスパークさせながら死んでいった。まただ、また気づけなかった。
なあ、ナナ。お前いつからそんな体になってたんだ?
最後に残ったのはオイラ。コタローも立派に大人になって、めぐみ達には子供まで生まれた。そいつらに囲まれながらも、何か足りない。
もう暴れることはない。ゆっくり、ゆったり生きていく。生きると言う名の死にじっくり体を蝕まれながら。
腕が重くなった。足が思うように動かなくなった。耳の奥でスパークする音が聞こえるようになった。目が見えなくなってきた。
剛は死ぬ前に『ありがとう』って言ったらしい。
ミー君は嬉しそうに死んだ。
マタタビは死ぬ前にオイラの体を抱きしめようとしてくれた。
ナナは『怖くない』と言った。
オイラは何て言って死ねばいい? どうやって死ねばいい?
ありがとう? がらじゃねーよな。
ごめん? 死んでから言う言葉だな。
元気でな? なんか違うな。
そうか、何も言わなくていい。しなくていい。黙って、静かに死ねばいい。
オイラは猫だから。誰にも死体を見られずに、土に返る。あれ? サイボーグの体でも土になれるのか? まあいいか。マタタビ……。お前が桜町から消えたわけ、今ならわかるぜ。
ほら、聞こえる。
死がオイラの体を壊す音が。