ドッチに刺され、あいつと別れてからのことを俺は知らない。
グレーが生きているのか、仲間達は無事なのか、あいつは、キッドは仲間のところへ帰れたのか。
わからなかったが、少なくともキッドは生きてるということだけは何故か確信していた。あいつはしぶといからな。きっとどんなことがあっても生きてるだろう。いや、生きていてくれないと困る。
拙者はまだ、右目のオトシマエをつけていない。
棟梁のもとを離れ、キッドを探す旅にでた。あいつを見つければ拙者の中に渦巻いている奇妙な感情もきっと帰れば理解できるはずだ。
拙者はまだ仲間達が生きているということを何処かで信じていた。違う。仲間達が死んだということを認めたくなかったんだ。
だが、そんな思いもあいつに会って打ち砕かれた。
あいつは名前を変え、新しい人生を生きていた。そこに、グレー達の姿はない。きっと町ネコの奴らに殺られたんだとわかった。
もしグレー達が生きてたなら、キッドの傍にいてくれるはずだ。仲間の多くはキッドのことを憎んじゃいなかったはずだからな。例えキッドが自らドッチを殺したと言っても、きっとわかってくれる。
でもキッドは一匹だった。
拙者の知っているキッドとはずいぶん変わってしまったし、少しも変わってなかった。
だから拙者は何も聞かなかった。聞けばあいつは傷つく。あいつの傷ついた顔などもう見たくない。
なのに、拙者はまだどこかでグレーは生きてるんじゃないかと思っていた。ゴローの暴走を食い止めるときにキッドがグレーの名前を叫ぶまでは、何処かで期待していた。無意味だとしりながらも。
「グレー達は……やはり死んだのか?」
もう聞かずにはいられなかった。このままでは拙者はいつまでも期待してしまう。ゴッチが生きていたのだ。グレーも生きてるのではないかと。
すまんな。お前も思い出したくないことだろうが、拙者は真実が知りたい。
「……死んだ。町のネコのボスに噛みついたまま」
そうか。グレーはあんな大怪我にも関わらず勇敢に戦ったんだな。さすがだ。
納得し、頷く拙者を見てキッドは殴りかかってきた。
「何をする?!」
寸前のところでかわした拙者は思わず叫ぶ。いくらなんでもあの拳で殴られれば痛い。死にはしないが、かなり痛いことには変わりない。
「オマエはいいよな……。あんな、あんな死にざまを見ずにすんで……」
今にも泣きそうな声は昔のままで、今の奴には拙者は見えていないのだろうと予想される。たぶん、キッドはグレーの最期を見ている。
予想通りとはいえ、やはり傷を抉ってしまったようだ。
「相打ちだった! グレーが全快だったら、オイラ達がいたら……負けはしなかった!」
グレーの強さは拙者も知っている。全快しているグレーが負けるなど考えもしない。しないが、敵は待ってくれなかった。拙者達がいれば、確かに少しは変わったかもしれない。だが、所詮『もしも』の話にすぎない。
「もうすんだことだ。どれほど可能性を言ってもしかたがない」
「黙れ! お前に何がわかる?! みんな……みんな死んでたんだ! 何も見てないお前に……何がわかる!」
……もう、我慢ならん。
そろそろ怒ってもいいだろ? 拙者も甘やかしすぎた。そうだ。何を遠慮する? 確かにキッドは多少脆いところはあるが立派なオスネコだ。傷つくとか、傷つかないとか気にする必要はない!
「ならば、貴様にはわかるのか?」
同時にキッドを殴る。
殴った手が痛かったが、そんなことは気にならない。
「拙者は貴様よりも長くグレー達といた……。親のように、兄弟のように思ってた仲間達の死にざまを、最期を拙者は見れなかった……!!
貴様にこの気持ちがわかるのか?!」
ああ、拙者もキッドのことはいえない。今にも泣きそうだ。声が震えている。
こんなつもりじゃなかった。そんな悲しそうな目をさせるつもりじゃなかったんだ。そうだよな。お前にとってもグレーや仲間達は親であり、兄弟だったよな。
最期を見てしまったお前にはお前の、最期を見れなかった拙者には拙者の、辛さがある。
グレー。何故死んだんだ?
拙者達にはまだ、必要だ。
END