折角クロちゃんに会いにきたのに、クロちゃんったらいないのよ!
家にいたのはマタタビ君だけで、おじいさんとおばあさんもいなかった。クロちゃんどこにいったのかしら?
「ねー。クロちゃんどこ行ったの?」
「拙者が知ってるわけないだろうが……」
ため息と一緒に答えるなんて失礼ね! 一緒に住んでるんだから、どこに行ったのかぐらい知ってたっておかしくないじゃない。
あーあ。待つしかないのかなー。
あっ! そうだ!
「ねぇ、ねぇ! マタタビ君にとってクロちゃんってなぁに?」
何となく聞いてみた。
クロちゃんって不思議なネコだもん。みんながどんな風に思ってるのか気になる!
「拙者にとってのキッド? そりゃあ……」
もったいぶるような、ちょっと考えるような間を置いて、マタタビ君が答えてくれた。
「ライバルだ」
マタタビ君はハッキリと言った。そういえばそうよね。マタタビ君がクロちゃんのこと『友達』とか言ったら……ちょっと不気味よね。
うん。納得。
そうだ! 他のみんなにも聞いて回ろっと!
「おい。キッドを待たないのか?」
マタタビ君が尋ねてくれたけど、もうあたいは走り出してたから返事ができなかった。気になったちゃったんだもん。
もう誰にもあたいは止められないわよー!
あっ! チエコちゃん発見!
「あ、ナナちゃん」
相変わらずゴローと一緒。あたいもクロちゃんとこんな風になれたらいいのに……。って、今はそれじゃなくて。
「ねぇねぇ。チエコちゃんにとってクロちゃんってなぁに?」
マタタビ君と同じ質問をぶつけてみると、チエコちゃんはちょっと困ったような表情を見せた。
「クロ? うーん……。よくわかんないけど、前みたいな憎しみの対象じゃないことだけは確かよ」
よかった。始めて会った時のチエコちゃん怖かったもん。
本当にクロちゃんが殺されちゃうと思ったの。だから、今でもチエコちゃんがクロちゃんのこと憎んでたらイヤだなって思ったの。
「よかった……。じゃあゴローは?」
「俺か? チエコと同じで、俺に思い出をくれた奴かな」
ゴローはすぐに答えてくれた。きっとマタタビ君やミー君、そしてあたいも、ゴローにとったら『思い出をくれた奴』なんだろうな。でもチエコちゃんは『大切な奴』だよね!
「もちろんナナも」
ほらね。やっぱりあたいも『思い出をくれた奴』
すごく嬉しいよ。だって思い出はたくさんあったほうがいいもん。あたい達があげた思い出はあたい達の中にもある。それは電気スタンドのままじゃ絶対に貰えないものだもん。
「ありがとう!」
次は誰に聞きに行こうかな。
「おや、ナナちゃんじゃないか」
歩いてたら鈴木さんに会っちゃった。鈴木さんの答えは予想できるけど……。隣にいるめぐみさんの答えはわからないから聞いてみよっと!
「ねぇ。鈴木さんとめぐみさんにとって、クロちゃんってなぁに?」
めぐみさんはちょっと考える仕草を見せたけど、鈴木さんは予想通りの答えをくれた。
「そりゃあボクにとって師匠は師匠ですよ!」
最近、『師匠があだなになってる』ってクロちゃんが怒ってたけど、やっぱり鈴木さんはクロちゃんを尊敬してるみたい。めぐみさんには敵わないみたいだけどね。
めぐみさんもやっと考えがまとまったみたい。
「そうねぇ〜。一緒にいたら楽しい奴。かしら」
へ〜。
めぐみさんってクロちゃんのこと、嫌いかなって思ってたからちょっと意外かも……。でもそういわれてみれば、何だかんだ言ってもクロちゃんと一緒にいると楽しそうだもんね!
ふふ。ちょっと嬉しいかも。
「ありがとね〜!」
さっ! 次、次!
さっき、空を飛んで行くのを見かけたから、こっちであってるはずなんだけど……いた!
「ロミオ〜! ジュリエット〜!」
空飛ぶカップル。あたしが生まれる前からクロちゃんのことを知ってる二人はどう思ってるんだろ? クロちゃんってロミオには結構厳しいから……。
「あのね、ロミオとジュリエットにとって、クロちゃんって何?」
あたいが聞くと、二人は顔を見合わせた。
「そりゃもうね〜?」
「ね〜?」
なにがね〜? なのかわかんないけど、これ以上は聞かないでおこう……。なんだかとんでもないこと考えてそうだもん。
この辺りって、他に知ってる人いたっけ……? あっ! そうよ! 忘れちゃいけない人をわすれるとこだったわ!
目的の場所につくと、目的の人は相変わらず料理をしていた。
「やあ、ナナちゃん」
クロちゃんと全く反対の性格にみえるけど、ミー君って実はクロちゃんとよく似てるわよね……。影響されちゃったのかしら?
ま、いいけど。今のあたいの興味はただ一つ!
「ミー君にとって、クロちゃんってなぁに?」
聞くと、ミー君は鍋をかき混ぜていたお玉を止めた。
ミー君はいつも真剣に話を聞いてくれるから好き。でも、クロちゃんには敵わないけどね。
「ボクにとってのクロか……。ライバル……って感じでもないし、友達……でもないなぁ」
腕を組んで考え始めちゃった。お鍋の中身焦げないといいけど……。ミー君、ドジなところあるから大丈夫かしら?
「あっ……腐れ縁かな」
やっと出た答えにミー君自身が納得してるみたいで、鼻歌混じりに再びお玉で鍋の中身を混ぜ始めた。いいな〜。あたいもこんな美味しそうな料理を作ってクロちゃんに……へへへ。
「クロォ〜? 厄介な奴だ! それ以外ない!」
人が折角幸せな気分に浸ってたのにこのボール!!
ただ黒猫だったクロちゃんをサイボーグにするくらい凄い科学者らしいんだけど、普段はコタローの方がよっぽど天才科学者って感じ。
コタローはあたいの産みの親でもあるしね。
「そりゃあ、ボクにとってのクロちゃんはヒーローさ!」
コタローのことを考えてたら、まるであたいの心を読んだみたいにコタローが現れた。
コタローは本当にクロちゃんのことが好きだから、クロちゃんの話をするときと、聞くときの目が一番輝いてる! もちろん実験してるときも輝いてるけど、そんなのも比べ物にならないくらい輝いてるの!
あたい、コタローにならクロちゃんをあげちゃってもいいって思えるもん!
一人そんなことを考えてたら、コタローがあたいを真剣な目で見つめてきた。
え? だめよコタロー。あたいはクロちゃん一筋なんだから!
「……ナナちゃんにとってのクロちゃんは?」
え……?
「あたい……?」
あたいにとってのクロちゃんは――。
周りの人に聞くと、やっぱりみんなクロちゃんが好きなんだな〜。って思えた。
そうよね。ちょっと乱暴だったりするけど、とっても優しいし、頼りになるんだもん。これ以上の人はいないってあたい思ってるから。
「ねー。クロちゃんにとってのあたいってなぁに?」
クロちゃんに尋ねてみた。
「ああ? そーだなぁ……。面倒な奴」
ちょっと考えてクロちゃんが口に出した言葉はちょっぴり酷いけど、きっと本音じゃない。
「ひっどーい!」
本当は何て言ってるのかわからないけど、クロちゃんはあたいを面倒な奴だなんて思ってないってわかる。クロちゃんは照れ屋だから正直に言わないだけで、本当はみんなのことが大好きなのよね?
だから、あたいにとってのクロちゃんは、素直じゃないけどあたいの大切な人!
END