蒸し暑い夏がやってきた。だが、特に暑いのが苦手というわけでもないナルトは、蒸し暑さを不快には思っていなかった。四季がめぐるのは自然なことであり、そのことについて一々何か思うことはない。
 しかし、夏になるとやってくる最大の敵がいた。
「……ナルト、一応聞こう。それはなんだ?」
 暗部の服に身を包み、完全武装をしたナルトに紅焔が尋ねた。
「奴らが攻めてきた」
 感情を持たぬその声に、紅焔はわずかに背筋を冷やした。
「いくらなんでも、それはやりすぎだろ」
 紅焔の言葉に、ナルトは強い殺気と鬼のような瞳を向けた。
「オレの個人的な感情で奴らを滅ぼすことを是とは思わない。奴らがいることによって成り立っているバランスもあるだろう。だからこそ、オレは今まで我慢してきた。オレのテリトリー外ならば奴らを見ても無視をしてきた。
 しかし! 奴らはオレのテリトリーに侵入してきた。これを宣戦布告と取らずにどうする?
 先に禁を犯したのは奴らのほうだ。一匹いれば、あたりに何万といると聞くが、まあいい。全て見つけ出し、滅ぼしてやる」
 口を挟むすきも与えず、ナルトは一気にまくし立てた。
 ニヤリと笑うその姿は、人を喰らう妖怪でも即座に逃げ出しそうなそれであり、紅焔はナルトの天敵である奴らに同情した。おそらくは、ナルトが今放っている殺気を感じ取り、この辺りからは逃げてしまっているであろう。
「お前は奴らの味方か?」
 わかりきった質問をするナルト。紅焔はナルトの前に跪き、ナルトの手をとる。
「いつ、いかなるときも、オレはお前の味方であり続ける」
 紅焔の答えに満足したのか、ナルトはニコリと笑う。
「……あのー。お二人さん? オレの存在を忘れないでくれます?」
 二人の世界に足を踏み入れたのはキバだった。
「ああ。忘れてた」
 わざとキバの心を傷つけるような言い方をしたのは紅焔で、ナルトはキバの存在にすら気づいていなかったようで、顔を赤くしている。さきほどの醜態を思い出しているのだろう。
「で、持ってきたのか?」
「ちゃーんと貰ってきましたよ」
 キバが懐から取り出したのはいくつかの種だった。
「何だそれ?」
「シノにあいつらが嫌いな植物を聞いて、シカマルにそれを品種改良させた物」
 キバの言葉に、ナルトは顔を輝かせる。
「マジで?! んなもんあるのか!!」
 種を受け取った紅焔は、どこからか鉢植えを取り出し、そこに種を植えた。もちろん、すぐに芽が出てくるはずもないので、紅焔の妖力を使い、成長を早める。
 芽がで、大きく育ち、白い花が咲く。
「これを置いておくといい。もう二度と奴らはこの家へはこない」
 紅焔から鉢植えを受け取り、ナルトは嬉しそうに駆けて行く。完全武装は解けていないので、その後ろ姿が可愛いかどうかは別の話。
「それにしても、ナルトにも苦手なもんがあるとはなー。オレん家なんて、昨日もゴキ――」
 最後まで言わせるものかと言わんばかりに、キバの横をクナイが通り過ぎた。
「――それ以上言えば、殺す」
 後に、キバは語る。
 アレは本気の目だったと。


END