飴玉
人柱力が不幸であると、迫害される運命にあると、決めたのは誰だったのだろうか。
強大な力を恐れた第三者であっただろう。そして、力を持った尾獣達なのだろう。
「ナルト」
「ナルトー」
遠い過去からの決まりなど破ってしまえばいい。
「紅焔さん」
「あ、紅焔さん!」
二人にはそれを成し遂げるだけの力があった。
それなりに平和で、楽しく、人々は九尾というものの存在を受け入れてくれた。初めは打算があったのかもしれない。敵として接し、里を滅ぼされるくらいならば、好意的に相手をし、里を守ってもらおうと。だが、今ではごく普通の人間同士の関係でしかない。
ナルトや紅焔を嫌う者もいるが、人柱力だから、尾獣だからという理由ではない。性格だとか、容姿だとか、そんな普通の感情なのだ。
「紅焔さん、お団子食べない?」
「えー。オレも食べたいってばよ」
「もう、空気読みなさいよ」
平和な昼下がり、人の姿をしている紅焔は女からすれば好意を寄せて当然のもので、恋という感情にまでは発展しないものの、お近づきになろうとする者は後を絶たなかった。
「ナルトも一緒なら」
「さっすが紅焔! 大好き!」
はたから見れば、二人は親子のようだった。
忙しく団子をほうばるナルトと、それを眺めて幸せそうに眼を細める紅焔。団子屋の娘はそれを楽しげに見ている。
「あ、今日は下忍の任務があるんだってばよ」
「そうか。なら、夜の任務は我がやっておこう」
二人は声をひそめる。
周りの者がナルトを受け入れてくれたとしても、真の実力を教えるわけにはいかない。それが暗部としての道を進む者に与えられた絶対の掟だ。
「そうだ。ナルト、これあげるよ」
「え?」
手渡されたのは苺味の飴だった。
「お客さんがね、たくさんくれたんだ」
「ありがとう」
「それと、紅焔さんにはこっち」
紅焔に渡されたのはレモン味の黄色い飴だった。
「互いの髪の色。
いいでしょー」
お姉さんが笑い、二人は顔を見合わせた。
言われてみれば、渡された飴と向かい合っている者の髪の色は酷似している。
「……ありがとう」
心の底からの言葉だった。
ナルトは顔が緩むのを抑えることはできない。
「いいの、いいの。その代わり、またきてよね?」
さりげなく次もくるようにと言葉を紡ぐのは流石だ。
「わかったてばよ」
「必ずこよう」
茶屋の奥では娘達が手を取り合い跳ねている。紅焔とナルトが並んでいれば絵になる。二人はいるだけで集客率向上につながるのだ。
「あー。ナルト!」
「サクラちゃん」
もらった飴を日に透かし、楽しんでいたナルトの耳に届いたのは同期の女の子の声。
「何こんなとこでのんびりしてんのよ! もう集合時間過ぎてるんだからね!」
「えっ! 嘘!」
「こんな嘘ついてどうなるのよ」
聞けば、いつも遅れてくるカカシはともかく、ナルトまでこないのでサスケと手分けして探してくれていたらしい。
時間通りにきていれば、サスケともっと長い時間いられたのにという愚痴を聞きながら、ナルトは何度も謝った。時間の経過を忘れるほど飴を貰えたのが嬉しかった。
「そんなことを言っている間にも、時間は過ぎてしまうぞ。
サスケに連絡をとって、集合場所に戻ったほうがいいのではないか?」
紅焔の助言に、サクラは眼を見開き、ナルトの襟首を掴んで走りだした。
「うあっ!」
突然の衝撃に悲鳴を上げる。
「仲良くするんだぞ」
引きずられていくナルトに手をふり、紅焔も席を立った。
「お代はいくらだ?」
「え、いいんですよ」
誘った手前というか、元々集客率を目的として呼んでいるので、団子の一本や二本は必要な出費だ。
「いや。あれほど美味いものをいただいたのだ。払わねば」
「……ありがとうございます」
団子を褒める紅焔の笑顔は穏やかで、美しかったけれども、ナルトを見ていたときのような、温かさと慈愛はなかった。
本当に親子のようだ。そして、それ以上に強い絆だった。
END