扉を開けてやってきたのは、厳つい男だった。
 顔中に傷があり、忍という職業の厳しさを下忍達に伝えてくる。中には、それだけの傷をつけられる奴がマヌケなのだと思う者もいたが、それは大きな間違いだと、ナルトはよく知っていた。
 上忍や特別上忍などの位へ行けば、あの程度の傷を受けるている忍は数多くいる。ただ、その忍達の大半が拷問に耐え切れず死んでしまったり、傷を隠すために変化や特殊な道具を使っているだけにすぎない。
「それでは、試験の内容を説明する」
 見た目通りの低い声に言われ、下忍達は自然と背筋が伸びる。
 聞いてみれば、ただテストをするだけという話。裏をかいてみれば、バレないようにカンニングをしろという話。ただ、一つ気になるのは、最後の問題だけが後で言われるということだった。
 ナルトは気づかれぬよう、周りを見渡す。サクラは自力で解いているようだ。サスケも、近いうちに気づくだろう。となれば、自分がどうするかという問題になる。
 うずまきナルトが使える技で、カンニング向きのものは何一つない。一、二問ほど自分で解けそうな問題もあったが、下忍であるナルトが解けるようなものではない。どうしたものかと頭を悩ませていると、隣から小さな声が聞こえた。
「な、ナルト君……」
 ちらりと視線を送ると、そこには同期のヒナタがいた。大人しく、影が薄かったため、今まで気づくことができなかったようだ。
 声を出すのはあまり得策ではないと判断したナルトは、小さく首を傾げる。
「あの……、私の、答え、見て……いいよ」
 ヒナタの純粋な優しさを感じた。本当はヒナタがナルトに好意を寄せていて、少しでもナルトの力になりたいと思ってやったことなのだが、ナルトは気づかない。他人の優しさに不慣れなナルトが相手であるがために、ヒナタの優しさが友情以上の意味を持つことはない。
 耳を澄ませてみると、試験管達がカンニングのカウントをしている音がする。まだこちらには気づいていないようだが、気づかれるのも時間の問題だろう。
「オレってば、そんな卑怯なことはしないってばよ」
 笑みを見せ、ヒナタを説得する。
 心なしかヒナタの顔が赤く染まっていることにナルトはやはり気づかない。
 ヒナタにカッコイイことを言ったものの、解決作があるわけでもない。ここは、最後の問題とやらに賭けてみるしかないと、ナルトは腹を括った。
「では、最後の問題を発表する――」
 ようやく、最後の問題が出題される。この問題に答えられなければ、ナルトはサクラやサスケの足を引っ張るだけの結果となってしまう。
「その前に、お前らに一つ言っておこう」
 いよいよだと思っていた矢先に、前置きをされて出鼻を挫かれた。
「この問題に答えられなければ、班の仲間もろとも、一生下忍でいてもらう」
 下忍達にとって、あまりにも厳しい言葉だった。来年も再来年もあると思っていた心が、一気に臆病風に吹かれる。
「そんなのおかしいぜ! ここには、去年試験に落ちた奴だっている!」
 誰かが叫び、イブキはその少年を睨みつけた。
「今年はオレがルールだ」
 会場が冷たい空気を漂わせた。
 試験は毎年違う。今年の第一次試験はイブキのものだ。万が一にでも、本当に一生中忍試験を受けられないようなこととなれば、将来は真っ暗だ。賭けをするにはあまりにもリスクが大きい。
「すまん……」
 一人、手を上げた。
 それに引かれるように、次々と手が上がっていく。
 ナルトはイブキの言っていることが、十中八九脅しだということはわかっていた。だが、もしも、本当だったとしたら、サクラやサスケを一生の闇へと連れ出すことになる。
 わずかな迷いの後、ナルトは手を高く上げ、机へ叩きつけた。
「ふざけんじゃねぇ!!」
 いざとなれば、紅焔にでもすがればいい。自分が足を引っ張る可能性があるとしても、正体がバレる危険性があるとしても、二人をここで落とすわけにはいかない。
「オレは絶対に火影になる! たとえ、一生下忍だって言われても、それは変わんねぇ!」
 この言葉は、自分自身への戒めだ。絶対に、仲間を一生下忍になんてしないし、自分の勝手な考えで道を閉ざさせるようなマネもしない。
「どんな問題でも、きやがれ!」
 ナルトの一喝に、周りの者達も勇気を貰った。もう、誰一人手を上げることはなかった。
 誰も手を上げないことを確認して、イブキが口を開いた。
「では、ここにいる者全員に……第一次試験合格を言い渡す!」


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