里の者から嫌われているのは仕方のないことで。
 同期の者から好かれるのはとても嬉しいこと。
 ただ、罪悪感が自分の肩にのしかかる。
「……オレ、嘘つきだよな」
 仲間と呼んでいる者達の前で本当のことを話したことなど、指で数えれるくらいしかない。
 忍道を貫くなんて嘘。火影になんてなれやしない。
「ナルト、呼ばれているぞ」
 いつの間にか隣に立っていた紅焔が優しく声をかける。
 顔を上げると、遠くの方から桃色の髪をなびかせ、サクラが手を振っている。
「ナルトー。お花見に行かなーい?」
 季節は春。桃色の桜が辺りに咲き誇っている。
「行くってばよー!」
 落ち込む気持ちを振り払い、サクラのもとへ駆けていく。よく見れば、サスケやシカマルといった同期のメンバーが揃っている。
 誰もが楽しみを抑え切れないというような表情をしていた。
「今から、先生達と合流するのよ」
「え、先生達もくるの?」
 ずいぶんと用意周到な花見だ。そのわりに、直前までナルトが花見のことを知らなかったというのはどういうことなのだろうか。
「あんたが悪いのよー。この前、任務が終わったらさっさと帰っちゃうんだもの
 前回の任務のとき、ナルトは高いテンションを維持することに疲れ切っていた。精神的なものだったので、早くその場を切り上げたい一身だったのだが、花見の予定を立てていたとなると、悪いことをしてしまった。
 一人だけ欠けている自分を探すために、みんなに迷惑をかけてしまった。
「早く行きましょ。どーせカカシ先生はまだきてないと思うけどね」
「カカシ先生がきてたら、明日は雨だってばよ!」
 くすくすと笑いながら桜の下を歩く。
「そういえば、さっきあんたの隣にいた格好いい人って誰?」
 ふとサクラが尋ねた。
「――知らないってば。偶然隣にいただけじゃねーの」
 また一つ嘘をつく。
 彼が九尾の狐だとは言えない。
「まあ、そうよね」
「どーいう意味だってばよぉ」
「あんたみたいなガキが、あんな格好いいお兄さんと知りあいなわけないってことよ」
「酷いってばよ!」
 こんな、他愛もない瞬間が楽しいと感じる。
「あ、いたいた」
 三人の大人が手を振っているのが見えた。
「カカシ先生もいるってば!」
「えー。雨が降っちゃうじゃない」
 珍しいことに、カカシもその中にいた。
「あのねー。先生だって事情がなかったらちゃーんと時間に間に合うのよ?」
「いっつも言い訳ばっかのくせにぃ」
 嘘つきはお互い様。
「まあ、いいじゃねーか。席はとってあるぜ?」
 アスマに促され、大きな桜の下に移動する。ちょうど満開になっている桜は美しい。
「ねえ、お団子食べようよー」
「もう、あんたはもうちょっと風情ってのを楽しみなさいよ」
「花より団子ってのは、チョウジのための言葉だな」
 笑いあい、食事をして桜を眺める。とても楽しい一時だ。こんな時間があるから、ナルトはいつまでも下忍でいたいと願う。
「うずまきナルト! 変化しまーす!」
 手を上げ、宣言をすると、周りがはやしたてる。
 桜がよく似合う服装と可愛い顔と誰もが見惚れるスタイル。花見の席にはピッタリの変化をしてみせると、男達が口笛を吹く。女たちは負けた、と顔をしかめている。
「さっすが!」
「いいぞー!」
「じゃあ、オレもしようかなー」
 カカシが名乗りを上げると、全員が引っ込めと声を出す。
「お前はお呼びじゃねー」
「先生がするくらいなら、あたしがやるわ!」
 笑いの耐えない花見を、遠くから眺めている者達の目に、ナルトはどう写っているのだろうか。
 忌まわしき狐か。ただの下忍か。
「せんせー、シカマルが御酒飲んだ!」
「何ぃ?!」
 季節は春。誰もが浮かれる季節。
「オレも混ぜてくれないか?」
「いい酒持ってきたんだ」
「おい、おい。子供がいるのに、酒ってのはいただけねぇな」
「団子喰うか?」
 いつしか、花見の席は大きく膨れあがった。
「誰か芸しろー!」
「じゃあオレがやるってばー!」
「またお前か!」
「いいぞー」
 はやしたてられ、変化をすると、席が盛り上がる。
 陽気な季節、ひらりと舞う桜の下で、人は手をつなぐ。


END