両通行  生まれたときからそいつが好きだった。
 そいつは赤くて、強くて、怖い。でも好きだった。こんな感情を向けるのは、あいつにだけだ。
「なあ九尾」
 声をかけても、返ってくることなど滅多にない。それでも、あいつには聞こえている。オレにはそれがわかる。
 だからオレは声をかけ続ける。
「お前を封印するような奴、殺してやるよ」
 あ、もう死んでるのか。オレの親父。
「じゃあさ、この里を滅ぼしちゃおうか」
『やめろ』
 ようやく返事が返ってくる。
 でも、いつものことだ。九尾は何故かこの里を滅ぼそうと提案すると、拒否の言葉を投げてくる。オレが失敗して、殺されたら困るからなのだろうか? 心配しなくても、オレは死なないのに。第一、そうなるくらいなら、寸前のところで九尾を解放してやる。
 今はダメ。解放したら九尾はオレを置いてどこかに行っちゃうから。それはダメ。絶対に。
『独占欲の塊めが』
 それは褒め言葉。だって、オレはお前が好きで好きでしかたがない。独占欲はオレがお前のことを好きな証拠。だから、ちゃんと受け取ってくれよ。
『ほざけ』
 今日はなんだかたくさん話してくれるな。嬉しいよ。
『我は身代わりになんぞなりたくない』
 何を言っているのかわからなかった。それはオレの中にいる九尾には簡単に理解できたのだろう。
 呆れた声色だったけど、説明してくれた。
『主は好かれたいのだ。誰かに愛を与えて欲しいのだ』
 でも、誰もくれないからあげる。九尾、意味がわからないよ。
『第一、主には好きも愛もわからぬではないか』
 やめてよ。そんなことないよ。だって、オレは火影のじいちゃんや、イルカ先生に、愛されたもん。好かれたもん。本当のオレじゃないけど、好きだって、愛してるって、言ってくれた。
 だから、オレは愛も好きもわかってるよ。
『なら、何故、我を愛さない?』
 心が止まる。
『主の好きは限りなく愛に近い。だが主は我を愛さぬ。好意だけを示す』
 知らんぷりしていたことを九尾は見せてくる
 オレだってわかってたよ。本当は九尾を愛してるんだ。かなり歪んだ形で。歪みすぎて、オレにはこれが恋なんだか、愛なんだかわからない。ただ、これを愛とするならば、オレは全部壊さなきゃいけない。九尾も、オレも全部。
 これが恋なら、そんなことしなくてもいいんじゃないかって。思ってたんだ。
 だってさ、おかしいだろ?

 世界でお前と二人っきりになってから、一番最後に死にたいだなんて。

 ごめんな。きっとオレには愛なんてわからない。これはきっと愛じゃないんだ。恋でもない。
 里の憎しみやら憎悪やらを一身に受けた結果、歪んだ復讐心なんだ。
『泣くな』
 うん。ごめん。
『謝るな』
 わかった。
『ナルトよ』
 初めて呼ばれた名前。オレはきっとこの声を忘れない。
『もしも、それを愛と認めるならば、主を愛さんでもない』
 世界は壊れるだろう。
 オレと、オレの愛する者の手によって。
 この歪んだ愛が世界を壊すのだ。なんて素敵なことなんだろう。


END