雪合戦 「火影様!!休みをください!」
「もう何ヶ月も家に帰ってません!!」
 黒い服に身を包み、仮面をつけた暗部が火影に直談判していた。
「うむ……考えておこう」
 書類の整理をしながら火影が暗部たちに返事をし、再び任務を与える。
 実は火影に直談判しにきたのは暗部だけでなかった。他の下忍や中忍、上忍、特別上忍までもが必死に頼んできたが、ここ最近木の葉の里は忙しく、全員に休みを与えるわけにはいかない。
 しかし忍にも家庭がある。どうにか休みを与えてやりたい……そんな火影の心遣いから出てきた考えそれは。

「ならば忍らしく戦いで休みをもぎ取るがいい。競技は雪合戦じゃ!」

 この決定は全ての忍に以下のように報告された。

『○月×日 午前十時より。木の葉の里で雪合戦を開催。
 下忍・中忍・上忍・特別上忍・暗部のチーム戦で勝負。負けたチームは優勝チームのぶんの任務が待っている。出たくなければ参加拒否も可。その場合、任務は通常どうりしてもらう。
 戦略はそれぞれのチームで考え、チームワークを駆使するのもよし、個人で攻撃するもよし。
 始め五分間の戦略&壁作りの時間を与え、その後日没までが戦闘時間である。
 各々心の臓の場所に小型風船をつけ、それが割れたら負け。退場となる。(風船は服の下)
 雪玉以外の武器は使用不可。忍術は公平にするため下忍レベルまで可。
 最終的に人数が多く残ったチームの勝ち。
 ※下忍チームには暗部を一人入れる。
 2※下忍、うずまきナルト以外は影分身の使用不可とする。
 3※雪玉の中に石を入れるのは不可』

 この報告を受けてから、忍たちは参加を決め、チーム内での戦略を練ることとなった。
「じいちゃん、俺たちは『下忍』として出るのか?それとも『暗部』として?」
 火影の前に立っているのは五人の暗部それも九番隊であった。九番隊には暗部の総隊長・副隊長、そしてその二人が認め、自ら育て上げた三人の忍がそろう最強の隊である。
 しかしその五人のうち四人は表舞台では『下忍』として存在している。
 暗部総隊長+暗部九番隊隊長 『金蒼』ことうずまきナルト 表舞台ではドベを装っているが実は火影をも上回る実力の持ち主。
 暗部作戦隊隊長+暗部九番隊策士 『影虎』こと奈良シカマル 表でも裏でもめんどくさがりやだがIQ200以上の天才。
 暗部諜報隊隊長+暗部九番隊諜報員 『白鷹』こと日向ネジ 表舞台では宗家を憎む天才だが、実際は宗家など眼の端に求めていない。
 暗部隊機動隊隊長+暗部九番隊機動員 『赤狼』こと犬塚キバ 暴れ者だが、任務になると冷静に敵を感知する。霊獣の力を身に宿し、その力は未知数。
 そんな四人にともう一人、暗部総副隊長+暗部九番隊副隊長である者がいる。
 『朱九』こと紅焔――しかしこの男の真の姿は、木の葉を脅かした九尾の狐である。
 この五人を前に、火影は臆すことなく笑っていた。
「そうじゃの〜。お主たちは下忍として出てもらおうかの。そうじゃ紅焔にも下忍チームに入ってもらうぞ」
 笑いながら決定する火影に、特に反対する理由もないので承知した五人が出て行こうとした。
「下忍であろうとも、お主たちが勝てば暗部のほうも休みになるからの」
 火影の言葉に、五人は目を輝かせた。
「マジか?!じっちゃん!!」
「いまさら撤回はなしだぜ?」
「火影に二言はありませんよね?」
「やった!!久々の休みだ!」
「たまにはゆっくりしたいしな」
 一斉に自分の思いを言う五人を見て火影は薄く笑った。
 この五人はここ半年、ほぼ休み無く働いていた。しかも昼は『下忍』としての任務があるので、睡眠時間も少なかった。
 そんな五人にこの話は渡りに船。五人は思いを新たに雪合戦に望むのであった。

 そして雪合戦当日―――
 それぞれのチームは一見こうだ。
 下忍チーム……全員出場。山中いの・秋道チョウジ・奈良シカマルがそれぞれ壺を持っている。
 中忍チーム……イルカを中心に、約二十人出場。
 上忍チーム……下忍担当の上忍+約十人出場。
 暗部チーム……約二十人出場。
 数は多い中忍と数、実力共に優秀な上忍、そして暗部の三つ巴になるかと思われたこの勝負……。だが下忍チームには暗部が不審に思う人物がいた。
 それは紅焔である。確かに下忍チームには暗部が一人配置されるとの報告だったが、誰一人紅焔とわかる者はいなかった。
 今回、紅焔はいつもの紅い狐の面ではなく、普通の白い鳥の面を被っていたからである。
「それでは今から五分後に始まりの合図を出す。それまで各チーム己を守る城を作ること。以上!」
 火影の言葉が終わったとたんに、暗部はそれぞれ散っていった。
 上忍チームは自分達の周りに雪の壁を作り、お互い背を向けながら雪玉を作った。
 中忍チームもそれに習い自分達の周りに雪の壁を作る。
 下忍チームは四人+紅焔が雪の壁を作った。しかもドーム状に作り出す。残った五人はシカマル達が持っていた壺の中のものを混ぜながら雪玉を作る。
「カカシ先生! 私たちが勝つからね!」
「はいはい。頑張ってね」
 時折、担当上忍との間に会話がなされるが、何処か雰囲気はピリピリしていた。
 そうこうしている間に開戦の合図が響いた。
 そのころにはどのチームも己を守る壁が出来ていて、姿が見えないのは暗部だけであった。
 ドーム状の壁を作った下忍はあらかじめ作っておいた除き穴で外の様子を観察しつつ、雪玉を大量に作っていた。
 辺りに緊張が走る。
「ガッ!!」
 上部ががら空きの中忍・上忍チームの数名が木の上に身を潜めていた暗部にやられた。
 上忍チームはすぐさま体制を立ちなおし、数名が上へ下忍レベルの火遁を発動させ雪玉から逃れたが、中忍チームはあっさりと全滅してしまった。
「やるね……でもこっちだって!!」
 写輪眼を発動させたカカシが数名の暗部を倒す。さすがは元暗部といったところだ。
「な! カカシ! それは反則じゃないのか?!」
 カカシを知っているらしい暗部がカカシに非難を浴びせるが、カカシは飄々と言ってのけた。
「忍は裏の裏を見ろ……写輪眼は忍術じゃない。だからこれは反則じゃない」
 暗部と上忍の戦いになり、下忍チームは忘れらたかの様に見えた。
「木の葉旋風!!」
 下忍チームの壁が内側から破壊され、外にいた上忍・暗部それぞれ数名が雪の破片に辺り脱落となった。
「何ぃ?!!」
 驚いた暗部たちが下忍チームがいるであろうところに目を向けた。しかしそこにいたのは百人には増えたナルトであった。
「「「「それじゃあ……逝けってばよ!!」」」」
 ナルトの言葉に違和感を感じた者も数名したが、ナルトが一斉に雪玉を投げつけてきたのですぐに身を隠した。
 投げるナルト(影分身)雪玉を渡す下忍……暗部こと紅焔がいないことに気を取られ、一人の暗部の顔面に雪球が当たった。
 しかし、暗部の面に当たったのにもかかわらずその雪玉は壊れることなく、暗部にダメージをくらわせた。
「この硬さは何だ?!」
 その場にいた下忍以外の全員が同じことを思った。
 その疑問に答えたのは下忍チーム策士、シカマルであった。
「雪玉に塩を入れてあるのさ。そうすれば雪玉は石のように硬くなる……とある上忍の言葉だが『忍は裏の裏を見ろ』ってことだな」
 シカマルの解説の途中もナルトは攻撃の手を緩めない。しかし、このナルトの攻撃すら囮でしかないのだ。
油断大敵……
 ナルトのほうに意識を集中していた上忍の上から紅焔が姿を現した。それに気づいた上忍たちが逃げようとするが時すでに遅し。紅焔が目にも留まらぬスピードで雪玉を胸の風船に命中させた。
 これで残るは下忍とチームと暗部チーム。
さすがに暗部は紅焔の気配に気づきいち早く避けていく。
 暗部の雪球が四方八方から下忍チームを襲う。
「皆! 伏せろ!!」
 ネジの言葉に全員がその場に伏せた。
「八卦六十四掌!!」
「二掌!」
「四掌!」
「八掌!」
「十六掌!」
「三十二掌!」
「六十四掌!」
 ネジの八卦六十四掌が全ての雪玉を叩き落した。
 雪玉の飛んできた方角に紅焔が雪玉を投げるが、その場にはすでに暗部はいなかった。
 気づけばもう夕暮れが近く、このままでは身を潜め誰も脱落していない下忍チームの優勝が確定しつつあった。
「クソ……せめて隊長がいれば…いや……そんなこと言っても始まらない」
 暗部の一人が何か呟き、印を組む。
「風華雪の陣!!」
 印を組んだ暗部を中心に風が集まり、その風に刃のように鋭くなった雪と華が吹き飛ばされ、下忍たちへ向かって飛んでくる。
「あれ禁術じゃねぇか!!」
 いち早く術に気づいたナルトが皆の前に立った。ナルトはそのまま目にも留まらぬ速さで印を組んだ。
草乱切風そうらんせっぷう
 ナルトが印を組み終えると、風が鋭い雪と華を散らし、切り裂き、跡形も残らず塵となった。
 ドベであるナルトの行動に驚きを隠せぬままの下忍たちだが、その中で固まらなかった三人がナルトのそばへ駆け寄った。
「おい…ナルト?」
「全員無事だったじゃないか……な?」
「そうだ……だから落ち着けって」
 順に、シカマル、ネジ、キバがナルトに声をかけるがナルトは何の反応も示さない。
燐荘りんしょう! このチャクラはお前だろ!!出て来い!!」
 声を荒げて言うナルトに周りの気温が下がった。
「やべ……」
「燐荘……あの馬鹿」
「ばれそう……だな?」
 そんなことを言いながらも、シカマル達は下忍の皆を囲むように立ち、結界を張った。
「お前ら……?!」
「どういうこと?!」
 皆は当然の反応を示すが、シカマル達は後で話すの一点張りであった。
 中々出てこない燐荘にイライラしてきたナルトが殺気を出す。下忍の皆はシカマル達の結界によって殺気が感じられなくなっているが、暗部の者は今にも発狂しそうであった。
「ナルト。こっちだ」
 いつの間にか燐荘の真後ろに来ていた紅焔がナルトを呼ぶ。ナルトにかかれば相手の場所を察知するのは簡単なことだが、ナルトに燐荘の場所を教えたのは周りの者のことを考えた紅焔の優しさである。
「燐荘? これは休みを賭けた勝負だ……しかし下忍に向かってあの術を使うとはどういうことだ?!
 俺がいなければ全員死んでいてもおかしくは無い術だろ!!」
 恐怖で下を向いてしまった燐荘の首にナルトはクナイを突きつけ、上を向かせた。
「術を使うときは時と場合を考えろ……そう言ったはずだ」
 燐荘を始め、他の暗部も目を見開いた。自分達にその言葉を言ってくれた人が一人。思い浮かんだのだ。
「総……隊長……?」
 燐荘の言葉にナルトはクナイを下げて燐荘を見下ろした。
「隊長の言葉を聞けず、しかも勝負のルールさえ守れないような奴の隊長に……俺はなった覚えは無い」
 冷たく言い放つナルトに燐荘は土下座した。
「すいませんでした!! 隊長!!!」
 謝る燐荘に声をかけたのはナルトではなく紅焔だった。
「次は……無いからな?」
 ゆっくりと仮面をはずした紅焔。その表情は黒い笑みを浮かべていた。
「副隊長まで……いらしたんですね…」
 燐荘は仮面の下で半泣きであろうことがうかがえる声を出した。
 姿を変え、狐の面をして任務をするナルトとは違い紅焔は姿を変えず、木の葉の暗部にはその顔を何度も見せているので誰もが知っているのだ。
 周りの暗部は心の中で燐荘に同情した。
「おい、ナルト…」
「燐荘はもういいとして」
「こいつらどうするんだ?」
 シカマル達が指すこいつらとは下忍の皆である。
「あ〜もういいんじゃね? ばらして」
 軽く言うナルトにシカマルとネジはため息をつき、キバはそうか?とナルトと同じく軽く考えていた。
「いいさ、受け入れなかったらそれまでだし」
 あまりにも綺麗な笑みを浮かべるから、シカマル達だけでなく下忍の皆まで赤面してしまった。
「改めて自己紹介…カカシ風に言うならそうだな〜。
 姓はうずまき 名はナルト。暗部総隊長兼暗部九番隊隊長『金蒼』だ
 好きなものは強い奴と戦えること。嫌いなものは臆病で弱い奴……里の大人とかな。
 将来の夢…そうだな〜。今はないな」
 下忍になったときと同じような自己紹介をするが、全然違う内容に驚く下忍の皆。
「長ぇな……ていうかそこまで言うのか?」
 文句を言うシカマルをナルトが睨みつけ、小悪魔の笑みを向ける。
「次はシカマルな? その次はネジ、んで最後にキバ……しっかり自己紹介しろよ?」
 シカマルは冷汗を流し、ネジは諦め、キバは最後ということに不満を持っているようだ。
「隊長の命令だからな……俺はまあ知ってのとおり奈良シカマルだ。暗部作戦隊隊長兼暗部九番隊策士『影虎』だ。
 好きなもの……言うのか? ………好きなものは禁術書。嫌いなもの…つーか苦手ことは戦いだな。だけどナルトを傷つける奴は殺す。
 将来の夢? のんびり暮らせたらいいけどな」
 途中省こうとしたらナルトにクナイを突きつけられて、言わされたシカマルだが何とか言えた。
「はあ……俺は日向ネジ。暗部諜報隊隊長兼暗部九番隊諜報員『白鷹』だ。
 好きなものは修行。嫌いなものは何も知らないくせにナルトを傷つける奴らだ。
 将来の夢は日向の宗家と分家をなくすことだ」
「やっと俺だな! 俺は犬塚キバ! 暗部機動隊隊長兼暗部九番隊機動員『赤狼』
 好きなものは動物とナルトの笑顔! 嫌いなものは里の大人と動物を虐めるやつ!!
 将来の夢は……とりあえずナルトに少しでも近づくこと!」
 キバの自己紹介にシカマルとネジがキバを睨みつける。
「キバ……覚悟は出来てるか?」
「俺たちも言わないようなことを……!」
「言ったもん勝ちだろ!」
「やめねぇか! 恥ずかしい……」
 顔を赤くしたナルトが三人にクナイを投げる。
 そのクナイを避けてナルトの横に着く三人。
「紅焔は自己紹介しねぇのか?」
 キバの質問に紅焔がめんどくさそうに頭をかく。
「あー。俺は紅焔。暗部総副隊長兼九番隊副隊長『朱九』だ以上」
 簡潔な自己紹介をした紅焔は、シカマル達に向き直った。
「お前ら……ナルトはわしのものだと言っただろ?」
 紅焔の妖気が混ざった殺気に三人は身を小さくした。
「まあ、あの四人はほっといてくれ……」
 額に手を当ててため息をつくナルト、下忍たちも引きつった笑みを浮かべた。
「まあナルトが強くても私たちは気にしないわよ」
「ていうかナルトってカッコイイのね〜」
「ナルト君……凄い………」
「ネジってずっとナルト君といたのか〜憎たらしいわ…」
 女性陣に続き男性陣もナルトに声をかける。
「まあドベはドベだろ……強くてもな」
「そうだ、ナルトは仲間だ」
「そうですよ!ナルト君は僕たちの友達です!」
「シカマルも知ってたみたいだね?」
 いつもの表情、いつもの態度で受け入れてくれる皆にナルトは優しくて、綺麗な笑顔を見せた。


END