毎夜、一匹の妖怪と、一人の幽霊の戦いが繰り返される。
ぐっすりと眠っているうしおの枕下に一匹の妖怪……とらと、それに対峙しているギリョウがいた。
ギリョウは、獣の槍から上半身を出している状態でとらを睨みつけていた。
「今日こそ決着をつけてやる」
「望むところだ……」
自分の頭の上で強烈な殺気を出されているのにも関わらず、うしおは幸せそうに眠っている。
「お前は蒼月と戦い、蒼月に怪我をさせたことが何度もあるだろう! そんな者が蒼月のそばにいるなど許さん!」
「ああ? てめぇだって、最強の武器のくせにうしおに怪我ばっかさせてんじゃねぇか」
「第一、貴様は妖怪、蒼月は人間だ」
「おめぇも人間じゃねぇだろ」
「私は元々は人間だ!」
「そりゃわしだって一緒だ!」
「歳の差を考えてもみろ!」
「てめぇもな!」
ここまでのやり取り……。一見大声で怒鳴りあっているように見えるが、実際は違う。
寝ているうしおを起こさぬよう、非常に小さな声で言いあっているのだ。例えるのならば、蚊の鳴くような声というやつだ。どうやら、全てに置いて優先されるべきなのはうしおのことらしい。
外で戦ってもよかったのだが、うしおを起こす可能性がある。しかも、毎日の習慣からうしおが獣の槍をしっかり握っているのだ。
「こんな言いあいなんざぁいくら続けても決着がつかねぇ!」
とうとう、とらが大声を出した。その声に驚いたのか、うしおが握っていた獣の槍を離した。
「……うしお…?」
うしおが起きたのかと、とらが呼びかけるが、うしおは何も答えない。どうやらまだ寝ているようだ。
「……ちょうどいいか。おいギリョウ、外行くぞ」
「望むところだ」
とらは獣の槍を掴み、外へ出ようとし、ギリョウもそれを了承した。
獣の槍が相手では妖怪のとらに勝ち目はないのだが、その辺のことは考えてないらしい。
「う……ん……」
窓から外へ出ようととらがしていると、うしおが目を覚ましそうな声を出した。
今うしおに起きられるのは非常に不味い。うしおを喰う作戦のため、とらが獣の槍を持ち出しているように見える。
身体を強張らせ、じっとしているとらの髪をうしおの手が掴んだ。
「…………!!」
髪を掴まれてしまい、頭を反らすという辛い態勢になってしまったとら。しかたないので、うしおの手をどうにか広げさせようと思い、いったんうしおに近づいた。
ふと、とらがうしおの顔を見るとうしおの顔は、先ほどの寝顔より幾分か幸せそうなものであった。
「幸せそうだな……」
ギリョウがうしおの寝顔を見ながら言った。とらも内心ギリョウに同意していたが、決して口に出すことはなかった。
とらとギリョウがうしおの寝顔を見ていると、うしおの顔が満面の笑みに変わった。
「と……らぁ……」
うしおがとらの名前を呼び、とらの髪に頬をすりつけた。
このうしおの行動に驚いたのがとら。ショックを受けたのがギリョウであった。
今夜の勝者:とら