愛してるよ。愛してる。愛してるから。
戦おうか。
愛の戦争
夜の闇に銀と金の光りが飛びかい、お互いをぶつけ合う。
しだいに銀も金も赤く染まっていき、美しい輝きを鈍らせてゆく。
声を上げることはない。悲鳴も、怒号も、何もない。二人はただ互いをぶつけあい、己と相手を地で染めてゆくばかり。
こんなことに一体なんの意味があるのだろうか。
彼らの周りの者達はこの行為を知らない。二人の傷は次の日にはすっかり治ってしまっているから。
「――――とら」
鈍くなった銀色が声を発した。
今にも泣きそうな声だったが、それは金色に届いた。だから金色は銀色に向かって爪を振り下ろす。
「――とら」
爪をかわした銀色がまた声を発する。
「とら!」
何度も、何度も、その言葉しか知らないようにその言葉を発する。
金色は銀色が望むかぎり何度でも爪を振り下ろす。その爪が銀色の命を奪うことなどできぬと知っているから。
「うしお……」
金色が呟くと、銀色は嬉しそうに顔を歪め、金色に槍を振るう。
二人は傷つけあう。
「うしお!」
金色は知っていた。銀色は可哀想だと。
銀色は周りの者達に愛されている。愛されているのに、銀色はいまいちそれに気づけていない。だから、こうすることでしか愛を語れない。
互いに傷をつけあい、存在を確認しあう。そして相手に自分の物だと印をつける。一生消えない傷を残せるように、銀色は槍を振るう。金色はそれに応える。
金色は愛を語る別の方法をたくさん知っていたが、あえてそれを言うことはなかった。
銀色の好きにしてやりたかった。何も気づいていない銀色が、自分なりに考えた結果を大事にしてやりたかった。
二人の戦いはエスカレートしていく。
銀色の目は次第に愛を語り合う優しい目から、金色という存在しか認識していないかのような恐ろしい目に変わっていった。
こうなると、銀色は何も言わなくなるが、金色にははっきり聞こえていた。
「愛してる。愛してる。
誰よりも、何よりも。
もう失いたくなんてない。誰にも渡さない。
愛してる。だから――戦おう」
人間ならば、狂愛とでも言うのだろうか。だが金色は人間ではなかったため、銀色のその思いが心地よかった。
「もっとだ。もっと……」
愛せ。
金色は囁く。
周りの愛情に気づく前に、その狂った愛で体を満たせばいい。
一生離れられなくなればいい。
平和なんて訪れなくていい。
この世界が終わるまで、永遠に戦争をしようではないか。
戦い続けて、愛を確かめ続けよう。
「愛してるぜ」
「―――――――愛してる」
だから、戦おう。
END