大学の友人と一緒に夕食を食べていると、うしおはお前は本当に飾らないと言われた。
 それは誰に対してでも同じように接するということであり、うしおがまったくと言っていいほどアクセサリーの類をつけないことだ。
「今時、ネックレスもしねーのお前くらいじゃねぇの?」
 そう言った男友達の首にはネックレスがかかっている。他の友人も、みな何らかのアクセサリーを身につけている。
「別にいいじゃねーか」
 口をとがらせて言ううしおを見て、友人は笑う。
「でもよ、携帯くらいは持っとけよ。お前と連絡取りにくいし」
 友人がポケットから出したのは黒い携帯。今では持っていることが当たり前といわれるようなその機械を見て、うしおは困ったように眉を下げた。
 親が持たせてくれないわけではない。むしろ、心配性な母、須磨子などはうしおに携帯を持てと勧めてくるほどだ。けれどもうしおはいつもそれを断る。
「わりぃ。でも、まだ持つ気はねーんだ」
 はぐらかすような笑みを浮かべたうしおだったが、友人達は引かなかった。
「お前いっつもそう言うよなぁ?」
「何でなんだよ。言えって!」
 興味津々というのを全面的に押し出して詰め寄ってくる友人達。始めは言わないと言い張っていたうしおだったが、しつこい質問攻めにとうとう音を上げた。
「わかった! 言うって!」
 うしおが降参のポーズを取り、友人は満足気に自分の席に座りなおす。
「……笑うなよ?」
 バツが悪そうなうしおに、友人達は当たり前だと頷いた。
「オレのすっげー大切な奴がさ、金属とか強い匂いとかが苦手なんだよ」
 そう言われてみれば、うしおは匂いの強いものをつけるもの嫌っていたなと、友人達はぼんやりと思い出した。
「今はいねーんだけど、いつか帰ってきたときに、すぐ近づけるように……」
 顔を真っ赤にして言葉を続けるうしおの姿は、どうみても恋する乙女のそれで、人並みの鋭さを持ち合わせている友人達はうしおの恋心を察した。
 そもそも、麻子や真由子と言った、男子から人気の高い二人と幼馴染でありながら、全く見向きもしないところから、誰か別の人に思いを寄せているのではないかという噂はあった。ただ、普段のうしおの姿からはそのような雰囲気は全く感じられなかった。
「早く帰ってくるといいな」
 友人の一人が優しく言った。
 その一言がきっかけとなり、他の友人も次々にうしおの恋を応援する言葉をかける。
「……うん」
 小さく頷いたうしおの表情が、どこか悲しげだったことに気づいたものは誰もいなかった。



 その一年後、うしおは友人達に携帯の使い方を聞くこととなった。
「帰ってきたのか?」
「ああ」
 幸せそうな顔を見ていると、彼女がいない何人かの友人はうしおを妬ましく思った。
「羨ましいなぁ。今度紹介してくれよ」
 友人の一人の言葉にうしおは言葉につまった。
 水臭いとうしおに迫る友人達。それでもうしおは首を縦に振らない。どうしたものかと友人達が思っていると、麻子が偶然にも近くと通りかかった。
「あっ! 木村さん。すみません、こいつの恋人って知ってますか?」
 幼馴染の麻子ならば知っているのではないかと思い、友人の一人は麻子に声をかけた。
 突然声をかけられた麻子はポカンとしていたが、すぐに笑って頷いた。やっぱりと思い、教えて欲しいと友人が言うと、麻子は笑ったまま首を横に振った。
「ダメダメ。それはできないわー」
 笑ったままの麻子は目線を少しだけうしおの肩へ移し、笑みを深くする。
「携帯、大丈夫なの?」
 麻子はうしおの肩へ視線を向けたまま尋ねる。うしおは答えなかったが、麻子は満足げな表情をして去って行く。
 残された友人達には一体何がなんのかわっぱりわからなかった。


END