今夜もいい月夜だな……っと?
珍しい面だなあ……ちょっと声、かけてみるか。
よお、あんた達見ない顔だな? 新しく生まれた妖怪か?
へえ……旅をしてるのか。
今までどんなところに行ったんだ?
外国? 元々日本の妖怪なのにわざわざ外に行ってたのか?
物好きだな〜。
そうだ、ずっと日本を離れてたなら、知らねえかもな。
この辺りに来たならこの話し。せっかくだから聞いていくか? この辺りに住んでる奴なら、人間も妖怪も、大人も子供も問わず聞かされる話しなんだ。
内容、知らないよな?
えっと、歳よりどもは『月と太陽の物語』って言ってる。
あっ、やっぱり知らない?
良かった〜。俺、他人にこの話しをするの始めてでさ、どうせならあんた達みたいな奴に聞いて欲しかったんだ。
聞いてくれるか?
そうか、聞いてくれるか。ありがとな。
はあ? こちらこそって……俺が話したくて話すんだからさぁ。お礼を言われるようなことじゃねえんだけどな〜。
まあいいか。礼を言われて嫌な気分になるわけじゃないしな。
じゃあ話すぞ。
昔、そうだなあ……まだ人間が俺達妖怪の存在をよく知らなかった頃の話らしい。
らしいってのはさ、俺も最近生まれたからよく知らないんだよな…。ワリイ……。
おっと、それでな……。そのころ、この日本には『白面』っていうそりゃあ恐ろしい奴がいたんだってよ。
何だ? 変な顔して……知ってるのか?
………んなわけないか。
それでな、その白面って奴は東西の妖怪が力をあわせても、ずーっと昔に妖怪と人間が力をあわせても倒せなかったっていうんだ!
そうとう強いんだろーな……。一度見てみたかった。なーんてな。
だけどな、その白面にも終わりがきたんだってよ。
白面との戦いに終止符を打ったのは、一人の人間と一匹の妖怪だって言うんだ。 信じられるか? 俺は……未だにちょっと信じられねえ。
白面がどんだけ強いのか俺は知らねえけど、東西の妖怪が力をあわせても勝てないような奴に、一匹の妖怪と一人の人間に倒されるなんて……。
何でも、どんな妖怪でも滅することのできる『獣の槍』ってのを人間が持ってたらしいけどな。妖怪はその槍に縫い付けられていて、それを人間が解放したって話しだけど……。
何で解放したんだろうな? 妖怪を解放するってことは、どうぞ食べてくださいって言うようなもんなのに。
ん? 何で笑ってるんだ?
え……何でもないってことないだろ……? まぁいいけどな。
えーと、何処まで話した? ああそうだ。妖怪の解放までだったな。
最後の決戦。東西の妖怪と人間は力をあわせた。力をあわせることができたのは、一匹と一人のおかげだって言ってたなぁ。
結局その決戦で、妖怪の方は死んじまったらしいけどさ、案外今頃甦ってるんじゃないかって噂だ。
東西の長はさあ、その一匹と一人を倒すには世界中の妖怪を集めないといけないって言ってた。
でも不思議なもんでさ、そいつらはいっつも喧嘩してたんだってよ。時には大怪我をするようなことまでしてて、周りは冷や冷やしてたってよ!
長はそれがあいつらの友情の形だって言ってたけど……俺にはわからねえや。
でも……人間は太陽のように明るくて強く、妖怪は月のように輝いていてやっぱり強かったって聞いてる。
月と太陽なんて……同じ空に共にいれるはずがなくて、交わることのないものなのに……。ずっと一緒だったんだって。
本当に運命)ってあるんだな。俺、白面のこととか、一人と一匹のこととか、いまいち信じられねえけど……すげえよなぁ。
何か、長達みたいに上手く喋れなかったな……。
褒めんなよ…。照れるじゃねえか……。
ところでさ、あんたらはこの話し、どう思った?
俺? 俺は……嘘くせえ……けど、本当の話だと思った。
何でって……なんでだろうな?
あっ! 笑うなよ!
で、あんたらはどうなんだよ?
大体そんなもん? いや、意味わかんねえし。ってか、あんたのいい方って、この話しになった奴らを見てきたような感じだよな?
気のせい? そんなわけないと思うんだが……。
――――っ!!
怖い! あんたの片割れ怖いよ!! 睨むなよ……俺が何したっていうんだよぉ……。
ああ、悪い……。いや、ちょっと泣きそう。
……あのな……。俺も一応男で、百年近くは生きてるんだぞ…?
わかってるか? なら、頭を撫でるのやめてくれないか? 恥ずかしいから……。
え? 行くのか?
ふーん。次は何処に行くんだ?
当てのない旅かぁ……いいな。それ。
あんたら、名前は? 変な意味はないぞ? せっかく俺が始めて『月と太陽の物語』を話した奴らだからな。
教えてくれるのか?! ありがとう!
へー。変わった名前だな。まあいいけどな!
じゃあな! また会おうぜ、うしお! とら!
END