明るく笑うその姿は太陽のようで。
 元気に走るその姿は犬のようで。
 熱心に絵に向かう姿は愛らしく。
 戦うその姿はとてつもなく妖艶であった。


 獣の槍によって長く伸びた髪を風になびかせ、己の血と敵の血で体を赤く染める。華麗に動きまわり、鋭い攻撃を加える。敵の攻撃を受け、呻くその姿さえ艶やかだととらは感じる。
 ずっとその姿を見ていたいとも感じるが、他の奴にうしおがやられているところを見るのはやはり面白くない。結局、とらは自らの手で妖艶な舞台を終わらせる。
「サンキュー」
 笑顔でお礼を言ううしおの口からは血が流れていた。
 流れる血を、とらは自然な動作で舐めとった。
「何すんだよ……」
 不満そうな声を出すものの、うしおは抵抗もせずとらに血を舐めさせる。
「おめぇはわしのもんだ」
 血の一滴。髪一筋。小指の爪まで。誰にも渡すまいととらはうしおの口内に舌を侵入させた。
 獣の槍の力で、治癒力が増しているため、口内にできた傷はほとんどふさがっている。それでも舐め続ければわずかに血の味がした。
「んっ……。も、やめろって」
 ようやく抵抗をみせたうしおは、とらを腕で押し出した。だが、とらはすぐにうしおを抱き締める。
 艶やかな踊りを見せていた踊り子をその腕の中に捉え、とらは満足気に笑う。
 戦いのさなかにのみ見せるあの艶やかさは、人間の脆さと儚さが獣の槍によって引き出されているからこそのもの。他の誰にもマネはできない。たった一人の踊り子なのだ。
「喰っちまいてぇ」
 一つになってしまいたい。
 そう言えばうしおはとらの頭を叩く。
「馬鹿。喰われちまったら、こうやってることもできねぇじゃん」
 暖かい体温を共有しあう。それは互いがこの世界に存在できているからこその話。片方が消えてしまえば体温は共有できない。
「それもそうだ」
 長い髪が、本来の短い髪に戻り、体の傷が癒える。
「なあ、早く帰ろうぜ」
 明日は学校が休みなので、一日中ゆっくりできる。
「血を洗い流してさ、さっさと寝て、明日なにする?」
「好きにすりゃいい」
 抱き締めあったまま二人は笑い、明日の予定を立てていく。幸せだとか、不幸だとかいう概念は二人にはなく、ただ一緒にいれることだけがたった一つの真実。


 抱き合う姿は一つで。
 笑いあう姿は太陽と月のようで。
 明日に想いを馳せる姿は向日葵のよう。
 生きる姿は獣。


END