いつもの平和な日常を守るのはヒーローの役割である。しかし、大抵の場所ではヒーローなど存在せず、また、ヒーローを必要としなかった。
「今日も御色町は平和である」
 ここ、御色町にもヒーローは存在しない。ただし、門番なら存在した。
「いってきまーす」
 吉永家の門番として、いつもの場所に座っているガーゴイルに挨拶をしてかけて行くのは、吉永さん家の凶暴な方こと双葉だ。ガーゴイルは双葉を見送り、いつもの場所で町中の音や感情を感じ取る。
 邪悪な気配や、騒ぎがあればすぐにでもそこへ向かうためだ。
「むっ?」
 なにやら破壊音のようなものを感じたガーゴイルは、すぐさまその場所へ移動した。ただ、その破壊音の原因がわかっているため、行きたくないという気持ちがある。しかし、そのようなわがままを言うガーゴイルではない。
「汝らは何をしている」
 ガーゴイルの目の前にはケルプとオシリスが対峙していた。この二人はよく喧嘩をする。どれほど喧嘩するのかと問われれば、ガーゴイルと百色くらいだと答えるのがだとうだろう。
 会えば喧嘩するわけではないが、険悪な空気にはなる。そして大抵は喧嘩に発展する。
「妾は悪くない!」
「私が悪いとでも?」
 何が原因かガーゴイルにはわからないが、まあどっちもどっちの理由なのだろうということは簡単に予想ができた。二人の意見を聞いていては日が暮れても解決しないだろうと判断したガーゴイルは喧嘩両成敗の言葉と共にビームを発射した。
「おー。今日もガーゴイルさん絶好調だな」
「商店街でビームは出さないでくださいねー」
 御色町の人々も慣れたもので、ガーゴイルに一言残して去っていく。
 人間でないものが四体以上おり、さらには人間なのか怪しい人物が多々いるような町なのだから、ガーゴイルなどそのへんにいる番犬と似たような感覚なのかもしれない。
「承知した」
 ガーゴイルもガーゴイルで、それを嬉しく思っている。
 いつのまにかガーゴイル対オシリス、ケルプコンビの戦いへ発展していった。
「――!」
 戦いもそろそろ終わりを迎えようとしていたころ、ガーゴイルとケルプは一つの事件に気がついた。
 ガーゴイルもケルプも、公私混同は決してしない。喧嘩をしているときであろうとも、御色町を守るためならばすぐにでも手を組む。
「強盗だ」
「わかってます。では、我々はここで失礼します」
 残されたオシリスは自分だけ置いていかれたことに腹を立てたが、事件があったのならばそれもしかたがないと、大人しく地面の中にもぐった。
 その後、オシリスは木たちからガーゴイルとケルプが強盗を捕まえたと聞いた。
 無論、そのようなことは木たちから聞かずともわかっていたことだが、二人の活躍を聞くと何故か頬が緩んだ。こういうのを悪友というのだろうか。


「よぉ。強盗捕まえたんだって?」
「当然のことをしたまでだ」
 学校から帰ってきた双葉といつも通りの会話をする。
 今日あったこと。聞いたこと。一日、一日は同じように過ぎていくが、昨日と同じ日などないと、ガーゴイルがきてからよくわかるようになった。
「そろそろ夕飯のようだ」
「マジで? 今日は何かなー?」
「コロッケだ」
「やっりぃ!」
 夕飯のおかずが好きなものと知ると嬉しそうなオーラを放つ双葉の背を見送り、ガーゴイルは呟いた。

「今日も平和であった」



END