暗部の男が狐の面をかぶった夜のナルトに今、まさに殺されかけていた。
「あ……ああ…」
 常に死と隣り合わせの暗部とはいえ、今までにないほどの絶対的な力の差と、死の予感に言葉を紡げなくなっていた。
 恐れる男を見ていたナルトが刀をだらりと下ろす。
 暗部は殺されないですむのかと一瞬安堵した。いくら暗部とはいえ死は怖い
 そしてナルトが近づき暗部に尋ねる。
「……おい。俺の質問に答えろ。そうすれば見逃してやる」
 ナルトの発言に暗部はどの様な質問が投げかけられるか緊張した。
 長年暗部としてやってきた自分をここまで追い込む者が尋ねることとは何なのだろうか。里の機密か、それとも答えられるはずもない謎かけか。
 緊張で体を硬くした暗部をナルトは見据え言った。
「『勇気』……とは何だ?」
 ナルトの言葉の意味を理解しかねた暗部は仮面の下で目をまん丸にしていた。
 この質問は、まるで子供の質問だ。まだ何も知らない無垢な子供がする質問と同じ。
「辞書では『勇気』――物事を恐れない強い心。いさましい意気。
 じゃあ『無謀』は? 『無謀』――よく考えずに行うこと。結果も考えず乱暴に物事を行うこと。理論は分かる。だが結果を考えず敵に向かっていくのも『勇気』と人は言う」
 暗部はナルトの言葉を聞き、この子はまだ幼い子供だと確信した。幼い子供が暗部になっているということは驚くべきことではあるが、実力があるのならばおかしなことではない。
 この何も知らない子供はこうして日々の疑問を解消するのだろう。
「『勇気』とは、どんに恐ろしいと感じても大切な人達の為に向かっていける心の強さのことだよ。
 『無謀』とは、何も感じず何も考えず、ただやみくもに向かうこと」
 暗部は我が子に語りかけるように優しく、暖かい口調でナルトに言う。
「そうか、それが『勇気』と『無謀』か……」
 何度も同じ事を呟くナルトを見て、暗部は家に居る子供を思い出した。
「じゃあ俺は『無謀』なのか」
 ナルトがぼそりと呟いた。
 暗部はなぜかナルトが泣いているように見えた。幼い暗部は大切な者がいないのだろうか。何も感じず何も考えずただ目の前の敵を排除するだけ。なぜそんな道を歩むことになったのだろうか。周りの大人は何をしているというのだ。
 暗部の中には様々な思いがめぐる。もしも自分がこの子供の近くにいたのなら、守ってやりたい。抱き締めてやりたい。暗部は願った。
「ありがとうお兄さん逃がしてあげる。というか同じ里の暗部だしな」
 ナルトの言葉に暗部は呆然とするしかない。
 まさか自分は同じ里の者に殺されかけていたというのか。
「ごめんな? でも俺を敵と勘違いしたお兄さんも悪いんだよ?」
 敵と味方の判断をつけれなかった事に反省すると同時にこの子供は誰だと考える。
 先ほどは思った。近くにいるのなら守ってやりたいと。同じ里のものだというのならばなおさらだ。
「こんな悲しい子が木の葉にいるなんて……「それはお前達大人のせいだろ?」
 急に後ろから声をかけられて驚いた暗部がクナイを片手に向き直る。
 そこには紅い狐の面の暗部。紅焔がいた。紅焔は暗部を無視してナルトに近寄る。
 暗部からはナルト達の声は聞こえないが、なぜかそう直感のようなものが告げた。
『(この幼い暗部は知らぬうちに大切な者をもっている。いつかきっと、『勇気』が分かるだろう)』


END