平和な桜町のとある家では毎日のように争いが繰り広げられている。
ただ、二匹のうち一匹が家を壊されるのを嫌うため単純な殴りあいや口喧嘩にとどまっている。
「毎日よくやるねー」
時折観戦に来ているミーが呟いた。
目の前では二匹が釘を投げたり枝を投げたりしている。素手で戦えばサイボーグであるクロの方が圧倒的に有利だからあのような戦い方になっているのだ。
今日はじーさんばーさんもいないので二匹は存分に戦っている。
「……う〜ん。ボク、仲間はずれにされてる?」
剛がコタローと二人で研究をしているからこうしてやってきたのだが、こちらはこちらでミーのことに気づいてすらいない。
ガトリングでも向ければ気づいてくれるのだろうが、そうすればまたこの家が壊れかねない。
「ねえ。どうしてキミ達はそんなに喧嘩ばっかするのさ」
聞こえていないだろうことはわかっていたがミーは言った。そうでもしないと退屈でしかたがないのだ。
「ああ? いまさら何言ってんだよ」
聞こえていないと思っていたのに、クロの耳には届いていたらしくクロは動きを止めた。同時にマタタビもつられて動きを止める。
「だって、クロはサイボーグでマタタビ君は生身なんだよ? 強さの次元が違うじゃない」
ミーの正論に対して二匹は口をそろえた。
「んなもん関係ねぇ」
二匹にとってサイボーグだとか生身だとかは関係ない。二匹の戦いに大事なのは戦いのセンスなのだ。
「第一、キッドの野郎はサイボーグだかなんだかになって拙者と互角なんだ。お互いが対等な状態だったら勝負にならねぇ」
マタタビが哂いながらクロを指す。
その言葉にミーが何かしらの反応を示す前にクロがマタタビを蹴りあげながら言い返した。
「んなわけあるか! 大体、オイラが生身の時だっておめぇは滅多に勝てなかったじゃねぇか!」
「なんだと?! 拙者がいつ負けた?!」
今度は口喧嘩を始める二匹のようすをミーはあきれながら見ていた。二匹の口喧嘩の内容も少々気になる。
「喧嘩でオイラに勝ったことあるのかよ!」
「三十五勝三十四敗だ! 拙者の方が一勝多い!」
言葉を交わすたびに物が飛び始めた。
「小せぇこと言ってんじゃねーよ! しかもそれ絶対嘘だ!」
「嘘なものか! 大体、貴様は一人で食料を盗みに行って何度グレーに怒られたと思ってる!」
ここでようやく面白そうな話しに発展した。ミーは興味深げに耳を二匹の口喧嘩に傾けた。
「おめぇと二人でいたってばれてたじゃねーか!」
「あれは貴様が勝手に行動するからだろ!」
どうやら二匹の中はそう悪くなかったらしい。むしろ仲は良かったのだろう。少なくともミーはそう解釈した。
ミーにとってライバルというものがいるのならばそれはクロなのだろう。だが、ミーにとってクロはライバルと言うよりは『悪友』という言葉が似合う存在であった。
ライバル。それは対等でいつでも言いたいことが言える。お互いをよく知っている者にこそ相応しい言葉なのだと思っていた。
「キッドォォォ!」
「マタタビィィィ!」
今日も二匹はよく喧嘩しています。
END