人生何があるのかわからないというが、日明天馬にとって、人生最大の危機が訪れていた。
『天馬へ
遺跡の調査がほとんど終わったので、一度家へ帰りますv
もうすぐ天馬の誕生日でしょ? プレゼントを持って帰るので楽しみにしててね♪
おそらく日本につくのは天馬の誕生日になると思うわ。じゃあね!
お父さんとお母さんより』
この手紙が日明天馬のもとに届いたのは今日。
天馬の誕生日は明日。
「えええー!!」
そう、天馬の両親は明日帰ってくるのだ。明日両親が帰ってくるとしった天馬は部屋を見渡した。
ゲームは出しっぱなし。お菓子の袋は散乱。お菓子のカスまで散らばった汚い部屋。
そして何よりも天馬が頭を悩ます奴ら。
「おい天馬、なんだそれ?」
「何々〜?」
「へぇ〜天馬の親父さん明日帰ってくるのかぁ」
「何ぃ?!」
大男飛天。女にしか見えない男、静流。長い舌を出している火生。どいつも、危機感のない言葉を出していたが、たった一人、凶門だけが危険を感じてくれたらしい。
「何だよ凶門? 天馬の親父が帰ってきたって、いいじゃねぇか」
火生が暢気な声で言いながら天馬の頬をつつく。
「よく考えても見ろ馬鹿妖怪!! 天馬の両親が帰ってきたときにこんな図体のでかい男が何人もいれば怪しまれるだろ!」
凶門は正論を言っているのだがとうの馬鹿妖怪達は聞いちゃいない。
「安心しろ。いざとなったら括ってやる」
帝月があっさり言うが、不動明王の霊符がない今、どうやって飛天を括るつもりだろう?
「………今は不動明王の霊符はないのだぞ……?」
凶門も思ったらしく、帝月に言う。
「あの馬鹿なら姿も消せるだろう」
「………天馬には見えてるんじゃないのか?」
「天馬に見えても問題はないだろう」
天馬がもつ違和感のうんぬんは無視の方向でいくらしい。
天馬の両親が帰ってくる日。
天馬の誕生日。
確かに両親は帰ってきた。時間は昼。早くもなく、遅くもない良い時間帯だ。
しかし……天馬の表情は暗かった。それは何故か? 部屋が散らかっていることで怒られるからではない。昨日必死に掃除したのだから。
天馬の表情が暗い理由は天馬の視線の先にある。視線の先にはそびえるプレゼントの山があった。
「母さん? 父さん?」
山の後ろにいる両親に声をかけると、プレゼントの山の後ろから発掘スタイルのままの両親が出てきた。
「ハッピーバースディ!天馬!!」
お祝いの言葉と同時になるクラッカーの音に、天馬は目を白黒させながら頭を抑えた。
この両親、たまに帰ってくる時は必ずプレゼントを持ち帰ってくれるよい親なのだが、今回は誕生日も重なり、常識では考えられないプレゼントの量になっていた。
「父さん……母さん……いくら何でもこの量は……」
プレゼントに喜びたいところだが、さすがにこれほどの量にまでなると、喜びを通り越してしまうらしい。
「何言ってるの! 可愛い息子の誕生日なんだからこのくらいは当然よ!
それより天馬。近所の人が最近は親戚の方もいらしてて、息子さんのことも安心ですねって言ったたんだけど、誰か来てたの?」
飛天や凶門、火生そして静流のことは天馬の親戚ということになっているのだが、当然本当の親戚ではないことぐらい両親はすぐにわかった。
「うちにくる親戚なんていないからな〜」
そう、両親は共に親戚達と仲が悪く、天馬も生まれてから一度もお婆ちゃんの顔を見たことがない。
「えっと……とりあえず家に入ったら?」
話題を変えようと、家の中へ両親を促す天馬。それもそうだと両親はプレゼントを持って家の中に入っていった。
「おや? お友達が来てるじゃないか」
「え?」
天馬が家の中を見ると、中にいるのは帝月と飛天だけ。帝月も飛天も姿を消しているはずだから、二人に見えるはずがないのだが二人には見えていた。
「あら、本当ね。大きいお友達まで連れて」
大きいお友達とはおそらく飛天のこと。
飛天も帝月も驚いたような顔をしてるが、天馬は二人よりもずっと驚いた表情をしていた。
三人の反応を見て天馬の母は何か思いついたような顔をした。
「……もしかして人じゃない人かしら?」
のほほんと笑う母だが天馬は笑えるような状況ではなかった。
何故両親たちの目に帝月や飛天の姿が映っているのかわからない天馬。そんな天馬をよそに、母は帝月に、父は飛天に近づいて行った。
「始めまして天馬の母です」
「天馬の父です」
それぞれ飛天と帝月の手をとった。
戸惑いながらも返事を返す二人は、見てて面白いものであったが、今の天馬はそれを笑うことすら出来なかった。
「驚いた?」
母は悪戯っ子のような笑みを浮かべて天馬に聞く。見れば父も同じような笑みを浮かべて天馬を見ていた。
「あたりまえだろ?! 何で父さんたちに飛天や帝月が見えてるんだよ?!」
わけがわからず頭を抱えている天馬の頭に母は優しく手を置いた。
天馬が母の顔を見上げる。
「やっぱり天馬も関わってしまったのね」
母の顔はどこか寂しげであった。
そんな母の目を見て帝月は少し胸が痛んだ。天馬がこの世界と関わるきっかけを生んでしまったのは他ならぬ帝月なのだ。
「あのね、私の家は代々巫女をやってるの」
「父さんの家は陰陽師だぞ?」
天馬の両親はどちらも妖怪に関わる仕事で、家族がらみで会ったときに知り合ったそうだ。
二人はお互い家族抜きで会うようになり、好きだった考古学について話すようになった。そうこうしていると、二人は家系を、家族を捨ててでもこの人と共にいたいと考えたのだ。
だから、天馬の本当の親戚は両親達に会いにこない。
「ずっと心配だったわ」
「二人とも妖怪に関わる家系だったからね」
黙っていたことか、それとも妖怪と関わらせるような血筋に生んでしまったことか、そのどちらかはわからなかったが、両親達は後悔しているような表情であった。
「……オレは、飛天や、ミッチーと会えてよかった」
両親が顔を上げる。飛天と帝月も天馬を見た。
「嫌なことなんかない。おかげで飛天やミッチーに会えたんだから!」
ハッキリと言う天馬。その言葉に両親や飛天、帝月までもが喜びを覚える。
「そう…それならよかった」
「じゃあ改めて」
「お誕生日おめでとう 天馬 」
END