私の部屋。私のお城。私の牢獄。
 ベランダに出て空を見てみるとまだ世界は暗い。また、寝なきゃいけない。
 私は部屋から出ない。出れない。扉の向こうの現実よりも夢の中の方がいい。
 おとなしくベットに入ろう。
 夢の中なら私は部屋の外に出られるの。
 あの悪夢にも似た私の夢の中で私は歩く。ただ、歩く。

 目が覚めた。っていうのはおかしいのかもしれない。
 だってここは紛れもなく夢の中。ベランダにいる私が見ている空は何処となく明るい。部屋に入ると、現実世界でテレビに繋がってたゲームがない。ドアノブを回す、扉が、開く。
 扉の向こうにはたくさんの扉。扉。扉。扉。
 扉の向こうにはいろんな世界が待っている。私は知ってる。何度も、何度もこの夢の中を探検したんだもん。
 今日だけで何度起きて、何度寝たのかわからない。もしかしたら知らないうちに何日も経ってるのかな?
 唯一安心して生きていられるこの夢の中でさえ、私は酷く責めたてられる。

 何で私だけが生きてるのかと。

 謝ればいいの? 誰に?
 適当な扉を開いて歩く。歩く。たぶん『奇妙』と形容されるはずの風景を私はただ歩く。
 白いばかりの世界。目が痛くなるほどカラフルな世界。ぜんまいの生えた世界。森ばかりの世界。赤い世界。
 たくさんある世界の何処に何があるのか私は知ってる。どこを開ければ『私』が眠っているのかも、何処へ行けば『罪の証』に会えるのかも、『愛するあの人達』に会えるのかも知ってる。
 たどり着くために私は手に握る。本来なら料理に使うためのそれを。
 簡単なことなの。握って、前に突き出すだけ。それだけで私の前から邪魔なものは消えてくれる。
 私の手が、体が、どれだけ赤くなってもかまわない。だって、これは、夢。夢だから『私』がいて『愛するあの人達』がいる。
 赤は怖くない。怖いのは赤い信号。私が怖いのはただそれだけなの。
 他のどんな赤も、鳥人間も怖くない。
 私、この世界でならなんだってできるのよ。いくらでも残酷になれるの。
 でもね、私なんかよりも現実の方がずっと残酷。なんで、私だけ残したのかな。
 わからない。もう何もわからない。何でアレが起こったのかも、何でこうなってしまったのかも、どうしてこれが夢で、何で私がこうして赤い世界の真ん中に立ってるのかも。わからない。
 ああ、もう、いいわ。
 夢の世界で得たものは何一つ現実世界に持って帰れない。そうね、捨ててしまいましょう。現実でも夢の世界でも、もういいもの。
 全て捨ててた私は目を覚ました。
 今度は現実。
 ようやく、夜が明けたみたい。今日だけで私、何度寝たんだろ?
 ……あ、もうどうでもいいんだ。
 いつもよりも少し高い位置から朝になりつつなる空を見て、一歩踏み出す。

 私にとって、夢も現実も血でまみれてるの。
 血は怖くないけど、もう見たくないから。

END