小さい女の子の定番の台詞に将来の夢はパパのお嫁さんというのがある。
「ナルト。お前の将来の夢はなんだ?」
まだ幼いナルトを囲んで、酒盛りをしているとき、シカクがナルトに聞いた。
九尾を従え、幾つもの禁術を使いこなし、一年も経たない内に暗部の総隊長となったナルトの夢。周りの者は自然と会話をやめ、ナルトの答えに耳を傾けた。
「……紅焔のお嫁さん?」
ナルトの口からでたとんでもない爆弾発言に、酒を口に含んでいた奴は盛大に吹きだした。ちなみに、その吹きだした奴の中には紅焔も含まれていた。
「お嫁さん……?」
婿ではなく? そんな疑問と同時に、何故紅焔なのかという疑問が浮かび上がってくる。
確かに、紅焔はある意味ナルトの父親のようなものではあるが、何年も一緒に過ごしてきたわけではない。まさか、幼く何も知らぬナルトをその毒牙にかけたのではなかろうかと、紅焔に冷たい視線が突き刺さる。
「わしは何もしとらんわ!」
焦ったあまり、いつもの口調ではなくなっている紅焔を見て、ナルトは首を傾げる。
「紅焔は、嫌なのか?」
眉を下げて、上目づかいで言われてしまうと、そういう趣味でなくともドキッとしてしまう。
「嫌と言うことはないぞ」
ナルトを軽々と抱き上げ、ナルトと目線をあわせる。
「だが、どうしてオレの嫁になりたいんだ?」
紅焔は妖怪だということもあってか、背徳感などというものは持ち合わせていない。ナルトの返答しだいでは本当にナルトを嫁にしかねないと周りは生唾を飲んだ。
良くも悪くも、ナルトの一言は周りを騒がせる。
「えっとねー」
ナルトの次の言葉を待つ。
「紅焔と一緒に忍の国をぜーんぶ征服するんだ!」
太陽のような笑顔で、なんとも恐ろしいことを言ってのけてくれた。
成長したナルトと、九尾の妖狐がタッグを組んだら、そんなことは簡単にできてしまいそうなのが怖いところだ。冷汗をかく暗部達とは裏腹し、紅焔は心底愉快そうに笑っている。
恐れられることはあったが、自分と共に世界を征服しようなどと考える者はいなかった。だが、確かに九尾にはその力がある。
「そうか。ではナルトが大人になったら結婚するか」
「するー!」
「待て待て!!」
ほのぼのとした空気で婚姻を交わそうとする二人を周りが止める。
「お前らのは洒落にならん!」
焦る暗部達に紅焔は笑みを浮かべ、ナルトは不満気に頬を膨らませた。
「ナルト。お前が欲しいのならば、その指に証をくれてやってもいいぞ?」
左手の薬指を紅焔はそっと持ち上げ、口づけをした。完璧に暗部達の反応を見て遊んでいる。
「あか、し?」
一方、ナルトの知識の中には『婚約指輪』というものがなく、証の意味がわからなかった。殺しの技術は知っていても、こういう基本的な知識に関してはまだまだ子供なのだ。
「………………」
紅焔は暗部達にとってはありがたくない笑みを見せた。
「くれてやろう」
緋色の長い髪を数本引き抜き、ナルトの薬指に結びつける。それだけならばただの髪だが、紅焔が一息吹きかければ、その髪は赤い指輪に変わった。
「お前が成長すると共に、その指輪の大きさも変わる」
小さな手に不釣合いなほど赤く、存在感を放っていた。
「その指輪は簡単にははずれない。
オレがお前を嫌ったとき。もしくはその逆のとき」
「……じゃあこの指輪はぜったい外れないな!」
紅焔の腕の中から飛び出し、指輪を暗部達に見せて回る。
「おい。マジか?」
「さあな。ナルトが成長してもまだ、あの指輪をつけたままだったら……やってやろう」
その時、シカクが見たのは九尾の妖狐として恐れられていた生き物であった。
禍々しいという形容詞以外見つからないその笑みに、シカクは里の未来を案じることしかできなかった。