暖かいコタツが恋しくなってきた今日この頃、万屋を営んでいる銀時はふとカレンダーを見た。
 今から丁度一週間後の日にちは赤く書かれており、その日が休日だと示している。
 赤い数字の下の記念日を読んだ銀時は頭の中に二人の子供の姿を浮かべた。
 いつも文句ばっかり言ってるくせに、自分から離れようとしない二人の子供を少しは喜ばせてやろうとガラにもないことを思う。
 ただでさえ、万屋は主の過去のせいで多くの騒動に巻き込まれているのだ。たまにはそれに報いなければならないだろう。
 ここ数日仕事の依頼はきていない。おそらくこの先数日も特に依頼は入らないだろう。銀時は馴染みのアルバイト先へ向かった。
「おーい。ちょっくら仕事させてくんね?」
 我がもの顔で仕事場に入ってきた銀時に鉄パイプが飛んできた。
「ちょっ……! これ危ないから! こんなの当たったら銀さんの頭から真っ赤なジュースが出てきちゃうから!!」
 何とか鉄パイプを避けた銀時は投げた張本人に抗議をする。
「まったく。まーた仕事がなくなったのか?」
「いや、それはそーなんですけどね。だからって何で鉄パイプを投げるの?!」
 銀時の抗議も虚しく、鉄パイプを投げてきた親方は小屋からヘルメットと作業服を取ってきた。
「何だ? 文句があるなら別にいいぞ?」
 その代わり仕事はさせてやらねー。という言葉が聞こえてきたような気がした銀時はおとなしくヘルメットと作業着を受け取った。
 親方は銀時の行動を満足げに見て仕事に戻って行った。
 どの仕事をしろとは言われなかったが、銀時は自分がするべき仕事がわかるのか、一点の迷いもなく歩いて行った。
「銀時ぃぃ! てめえはこっちだ!!」
 迷いもなく歩いて行った銀時に鉄パイプを投げつけながら親方が怒鳴る。
「だからって鉄パイプ投げんじゃねえっつってんだろぉぉぉ?!」


 銀時がカレンダーを見て数時間後、買い物から帰ってきた新八と神楽はテーブルの上にあるメモを手にした。
 メモには一週間ほど泊まりこみの仕事して来るから、神楽を預かっておいて欲しいと書いてあった。
「神楽ちゃん。銀さん仕事でしばらく帰ってこないみたいだから、銀さんが帰ってくるまで僕の家にいなさいだって」
「まったく。そういうことは前もって言うのが普通アル」
 腰に手を当てて怒ったフリをしている神楽を新八が形だけ宥める。
 それにしてもよくあのグータラが自主的に働きにいったな〜と、新八が何気なくカレンダーを見た。
 そこには銀時が見たときと同じく赤い数字の下に文字が書かれていた。
「……ねえ神楽ちゃん」
 声は真剣そのものだというのに、表情は悪戯をするかのごとくにやけている新八を神楽は疑わしげに見た。
「何アルか? キモイんだよ眼鏡」
「眼鏡を僕の代名詞にしないでくれる?!」
 純粋な神楽の目には『キモイ』としっかり書かれており、新八は心を痛めつつも、カレンダーに書かれた文字を指差した。
 そこに書かれていたのは、神楽には馴染みのない記念日。
「これがどうかしたネ?」
 馴染みのない記念日を指差され、首を傾げている神楽に新八はその日のことを教えた。
 簡単な説明を聞いた神楽は記念日について理解したようだが、その記念日と新八の笑みが結びつかず、やはり首を傾げている。
「ほー。それでそれがどうかしたアルか?」
「だからね……」
 誰が聞いてるわけでもないが、新八は神楽の耳もとで小さく計画を話した。計画の内容を新八が話すと共に神楽の口元が緩んでいった。神楽の横で待機している定春も心なしか楽しそうである。
 全てを話し終えた新八は神楽と向きあった。その表情は悪戯を計画したばかりの子供のような笑顔だった。
「じゃあ僕らもメモを置いて行こうか」
「とっととするヨロシ。さもないとその眼鏡が粉々になるアルヨ」
「僕と話すのに一々眼鏡を出さないでよ!」



 銀時、そして新八と神楽の計画が立てられてから一週間が経った。
 お互い目的に見合うだけの給金を貰い、狙っていた物を買った。
 後は渡したい相手に渡すだけ。
「おーい。ちょっとお前らそこに座れー」
 いつものやる気のなさ気な声も何処か嬉しそうな響きがあるようにも聞こえる。
 神楽と新八は銀時の話を聞いてからプレゼントを渡しても遅くはないだろうと思い、素直に銀時の前のソファに腰掛けた。
「あー。まあなんだ……」
 呼んだはいいが、中々切り出しにくく銀時は『あー』やら『まあ』やらを繰り返していた。
 あまりにも銀時の呻きが長いので、イライラし始めた神楽が新八ごとソファを投げようとしたその時、腹を括った銀時が神楽と新八に何かを投げた。
 袋にも入れられておらず、裸で投げられたそれらはしっかりと持ち主となる者の所へ収まった。
「銀さん……?」
「これ……」
 新八の手の中には先日発売したばかりで、未だに購入できていないCDがあり、神楽の手の中には花をモチーフにした可愛らしいかんざしが収められていた。
 手の中に収められている物と銀時を交互に見る神楽と新八。
 銀時は恥ずかしいのか頬を赤く染めていた。
「何? 銀さんをそんなに見ても、もう何もでてこないからね」
 言い訳っぽく二人に言う銀時に神楽の第一声ならぬ第一動が襲う。
 神楽は銀時の胸倉を掴み、前後に銀時の身体を揺らす。銀時の静止の声も届かず、新八の怒号が銀時に追い討ちをかける。
「そっちが先にやったらダメだろぉぉぉ!!」
 せっかくの計画が台無しになり二人は銀時を責めた。責められている理由がわからない銀時はとりあえず神楽を止めることにした。
 数分後、何とか神楽の暴走を止め、新八を宥めた銀時は二人から話を聞こうと再び向かい側に座った。
「で? 一体なんなわけ?」
 銀時が尋ねると、新八は静かに立ち上がり台所の方へと歩いていった。
 その様子を見ていた銀時は不思議そうな顔をしながらも、新八を止めることはしなかった。
 台所に入っていった新八は慎重に歩みを進めながら戻ってきた。その手には通常より一回り大きいパフェ。
「え……? ちょっ! これ有名な『ゴージャス気分パフェ』じゃん!」
 今流行の甘味屋で売っているパフェに一瞬目を奪われた銀時はすぐさま新八を見た。
「……僕らも用意してたんですよ」
「さすがに『ゴージャスパフェ』は無理だったネ」
 『ゴージャスパフェ』を買えない人のために売り出された『ゴージャス気分パフェ』はその名の通り気分だけ味わえる物である。味、室、量共に本家には敵わないがそこいらのパフェよりも数段美味しい。
 超甘党の銀時としては何よりも嬉しい贈り物であった。
「今日は……勤労感謝の日ですから」
 新八が机に置いてあるCDを見ながら照れくさそうに笑った。
「まあ、仕事らしい仕事なんてめったにしないけどな」
 照れ隠しに減らず口を叩きつつも、神楽は手の中にある簪を大事そうに優しく握っていた。
「考えることは同じ……ってか?」
 同じことを考えていたにも関わらず、相手の行動が予測できなかったことに銀時は苦笑しつつもどこか嬉しそうであった。



 オマケ
「しっかしあいつら邪魔ばっかりしやがって……」
「まあまあ、いいじゃないか家族愛!」
「別に家族っていうわけじゃありませんけどねぇ」
 所変わってここは真選組。
 いつもと違って、壁の所々に風穴が開いていたり、地面がへこんでいたりと、何とも痛ましい姿になっているが、ここは間違いなく屯所である。
 何故このような事態になっているのかと言えば、全て新八と神楽のせいなのである。
 銀時への贈り物を買おうにも、お金がいる。子供の自分達でも素早くお金を稼げるところはそう多くない。そこで二人はそれなりに交流のある真選組へ転がり込んだのだ。
 事情を説明すれば、人の良い近藤はあっさりと引き受けてくれた。
 だが、神楽と沖田の喧嘩によって破壊される数々の備品。そして建物。損害は大きかった。
「新八君はよくやってくれたわけだしな」
 神楽とは対照的に、新八は真面目に働いた。掃除、料理などの家庭的なことは得意なのだ。
 嵐が去った後のような屯所で、話していた三人は大勢の足音を聞いた。ドタドタと五月蝿い足音は間違いなく真選組の者の足音だろう。
「近藤さん!」
「局長!」
「「いつもごくろうさま!」」
 襖があったはずの場所から入ってきた部下達が声をそろえて言った。各々手には酒やらお妙さん写真やらを持っている。おそらく近藤への贈り物なのだろう。
「……ありがとう」
 照れくさそうに笑う近藤の横で、沖田と土方は不満気に声をあげた。
「なんでぇ。近藤さんばっかり」
「俺だって仕事してるぞ?」
 文句を言っている二人だったが、山崎の言葉で文句も言えなくなる。
「でも、二人とも後ろにあるのは、局長への贈り物なんでしょ?」
 山崎の言うとおり、二人の後ろには綺麗にラッピングされた贈り物があった。
 誰が一番一生懸命で、頑張っているのかはみんなが知っていた。


END