いつからだったか、自分の中に矛盾する二つの気持ちがあった。
オレとフリッピーは同じ存在だ。二つで一つの存在。同じ存在として扱ってくれと願う。けれど、あいつと話すようになってから、もう一つの願いが生まれた。
「オレはあいつじゃねぇ」
深い闇の中で呟く。
同じ存在でありたいと願いながら、違う存在として見てくれと願った。
あいつは言った。オレはあいつで、あいつはオレだから。どちらも愛している。大切なんだと。それがとても嬉しかった。だって、誰もが優しいあいつと、凶暴なオレとして見ていたから。同じ存在なのに、どうしてこうも違うんだといつも憎んでいた。
オレはあいつが好きだ。好きなんだ。
「あ、スプレンディドさん」
光の方から声がした。あいつがいるらしい。
「やあ」
遠くから聞こえる声に、胸がはずむ。
まだ大丈夫だと自分に言った。
フリッピーは鈍いから、あいつのことを優しい友人くらいにしか思っていない。愛してるも、好きだもどちらも口の上だけの言葉だと思っている。
どうあがいても、オレはあいつだ。だからわかる。
気づいた時がオレの終わり。
あいつはオレのことを同じ存在と認めていない。ただ、都合のいい存在だから今もまだここにあるだけだ。フリッピーがスプレンディドと同じ思いを返したなら、オレは邪魔者だ。そうだろ? オレだって嫌なんだから。愛情が二分割なんて。
せめて、どちらか片方を愛してくれればよかった。オレがフリッピー。どっちだっていいさ。オレを愛してくれたら幸せだし、フリッピーを愛してくれたらなオレは消えなかった
二人を愛しているなんて馬鹿だ。どこかの言葉で、二兎を追うものは一兎も得ずってのがあるらしい。つまり、二人を狙ってたらどちらも逃がすってことだ。まあ、フリッピーは手に入るから、この言葉はちょっと違うけど。
「冗談なんかじゃないよ」
オレのヒーローが言う。愛しているのだと。
光が強くなった。
「……本気、なんですか」
期待してるくせに、そんな言い方するなよ。
「もちろんさ」
「でも、ボクは……」
「これからは私が君を守る。それでいいじゃないか」
ほら、また光が強くなった。
光は強くなり続けて、居心地のいい闇を奪ってしまう。
「その、今さらかもしれないんですけど」
最期なんだ。最後に一つだけ、オレに言わせてくれ。お前はこれからまだまだ言える言葉だから。
未来のないオレにその言葉を譲ってくれ。
「ボクも好きです」
見えないけど、スプレンディドが驚いているのがわかる。抱きしめられた。光は強くなる。
さようならだ。ヒーロー。
オレは好きだと言えずに消えていくよ。二人で幸せになってくれ。
「今日はなんて素晴らしい日なんだ!」
そうだな。こんな良い日はない。ずっと、ずっと覚えておけよ。
光が闇を侵食する。オレの体と意識は消えていく。
「愛してるよ!」
「恥ずかしいですよ」
オレも愛してたよ。マイヒーロー。
止めてくれるのも、抱きしめてくれるのも、オレを見てくれるのも、すべてが愛する要因だ。
「さようなら」
「え?」
「……ボク、何か言いました?」
「いや……今、軍人君が」
最期の最後だ。
これくらいいいじゃないか。オレだって話したかった。もっと、もっと話したかった。
それをしなかったのはオレだから、しかたないか。
さようなら。
END